第三十二話 太子の焦燥その十
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「一つです」
「今もですか」
「共にあります」
いる国は離れてもいうのだ。
「今も尚」
「そうですね、しかし」
「しかしですか」
「私には」
こう言うのだった。
「そうした人はいないです」
「それは」
「貴女達の心には感謝します」
マリー達のそれはというのだ。
「ですがそうも思いました」
「左様ですか」
「私にはそうした人は誰もいないです」
一人もというのだ。
「生まれた時から、今まで」
「そうですか」
「あの人がいますが」
太子のことも言うがそれでもだった。
「貴女にはとって二人はそれ以上の絆ですね」
「伴侶以上の」
「そう思えます、自分自身でもある」
三人にとってそれぞれはというのだ。
「そうですね」
「そう言われますと」
マリーもだ、姉の言葉を受けてだ。己の中に入れてから答えた。
「そうなります」
「やはりそうですね」
「私達はそれぞれもう二人の自分自身を持っています」
「だからこそですね」
マイラはマリーの前にある杯も見た、赤の葡萄酒の中には今も三色の薔薇の花びらがある。いつもの様に。
「お酒もそうしてですね」
「三人共です」
まさにというのだ。
「飲んでいます」
「やはりそうですね」
「そして私達がです」
「ユニコーンの角を見付けてくれて」
「粉になっています」
粉を潰して、というのだ。
「是非飲まれて下さい」
「貴女達の気持ちを」
「そうされて下さい」
「わかりました、私も」
マイラはユニコーンの角を粉にしたものを入っていた袋を手にしつつだ、そのうえでマリーに対して言ったのだった。
「これを飲みます」
「そうされますか」
「はい、ただ私は」
「お姉様は」
「貴女達とは一緒ではなかったですし」
それにというのだ。
「一緒であるべきだったかも知れないですね」
「そう言われますか」
「そうも思いました、ですがもう言っても仕方のないこと」
俯いた顔で遠くを見る目で言った。
「そうなりますね」
「それは」
「ですがその通りですね」
マリーの考えを遮る様にしてだ、マイラは言った。
「今更」
「今からでも遅くはありません」
「いえ、遅いです」
そうなったというのだ。
「最早」
「そうですか」
「はい、一人で生きて死んでいきます」
「それは」
「人は必ず死にます」
それは逃れられないというのだ。
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