目々連
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に。幽霊みたいな感じじゃなくて、むしろ…なんか私の方が死んでるような…厭な気分に」
「……だろうねぇ。死んでるのは、あんたなんだよ」
目を見開いて凝視する俺達二人を置いてけぼりにして、奉はチョコレートケーキのフィルムの端を探し始めた。
「……見つからないねぇ……」
「おい!お前爆弾発言だけ残して俺達ほったらかしで甘味優先かよ!」
「うるっさいねぇ…眼鏡屋が云っていただろう、この女は超絶ビビリだ。現在、過去、未来。全てに怯える」
「だから!?」
「見られているのは未来の『死骸となった自分』」
――――!?
「窓から覗いていたのは、生きている人間…悲惨な事故に釣られて集まって来た野次馬よ」
あのバスは将来…いつかは分からないが、とても悲惨な事故を起こすよ。あの橋で、あんたを乗せて。奉はケーキを頬張りながら、事もなげに云った。
「そりゃ、厭な視線なわけだよ。自分の死骸が晒し者にされてるんだからねぇ」
「それ…決定事項なんですか…!?」
静流さんがプルプル震え始めた。…あ、なんかチワワみたい。
「バスが事故、までは決定事項と云っていい」
奉はフォークを静流さんの方に突き出した。…やめなさい、お行儀の悪い。
「目々連…という妖怪を知っているか」
静流さんは、ふるふると首を振った。俺は知っているが、上手く説明できる自信がないので黙っていることにする。
「とある旅人が、道に迷いその日の宿に困り、偶然見つけた廃屋に泊まる。…夜中、厭な気配に目を覚ますと、彼は気づく」
障子に現れた、無数の目が彼を凝視していることに。そう呟き、奉は再びフォークで一口分のケーキを切り取った。
「その妖怪に凝視されると、どうなるのですか」
「なにも」
「えっ」
……そうなんだよな。こいつらは、確か……。
「基本的には、見るだけだ。この話には続きがあってねぇ」
羽織の袖に手を差し込み、奉は語り始めた。
ある日、同じ廃屋に他の旅人が迷い込む。やはり夜中に視線を感じて目を覚ます。旅人は障子に現れた目をほじくり出し、眼医者に売りとばして一儲けする。
「そ、そんなことして呪われないんですか!?」
「呪わんよ。…こいつら自体には、恨みの念だとかそんな高尚なものはない」
そう。確かうろ覚えの記憶を辿れば…奴らは民衆の物見高い視線が障子の『目』に影響を及ぼして生じた、それだけの妖。云わば軽い野次馬根性の集積なのだ。
「似ているねぇ…あんたの視た幻に」
くっくっく…と低く笑い、奉は白いティーカップを口元に運んだ。
「窓の外から凝視する連中は、あんたを死に至らしめようとしているわけじゃない。ただ興味深い事故の匂いに誘われて現れただけのことよ。…簡単なことだろ、今後一切、そのバスに乗らなけりゃいいのさ」
「本当に…
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