目々連
[6/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
たり前だ。だが今回だけは、じっくり視てみろ。そのあと、退くか進むかはあんた次第だよ」
これが、俺と奇妙な眼鏡屋のなれそめだった。
「いよいよ、例の橋だねぇ」
普段乗り慣れないバスに揺られながら、奉が揶揄うように呟いた。
眼鏡屋を出た後、俺たちは近くのバス停から学校へ向かうバスに乗った。静流さんは初めて日本に来たビビリの留学生のように、きょときょとと忙しなく周りを見回していた。ビビリだけど基本的にとても真面目な子なのだろう。バスに乗ろうと提案したのは、意外にも彼女だった。
「視えるのは怖いけど…誰かと一緒だと怖さ半減です」
そういう理由かい。
「あの…少し、いいですか」
そう呟いて、静流さんは俺の手首を袖の上から、きゅっと掴んだ。そして伏せていた目を少しだけ上げて、俺と目が合うとぱっと頬を染めてまた伏せた。
「橋を通り過ぎるまででいいから…ちょっとだけ」
………い
いいなぁ……これ、いいなぁ……。
たまにちょっとイラッとするけど、全然許容範囲。一族郎党含めて俺の周りにはいなかったタイプだ。新鮮過ぎる。
「くっくっく…広がるねぇ選択肢」
そうだこいつが居たんだった。駄目だ伸びるな俺の鼻の下。
「………あっ」
手首を強く握られ、俺は我に返った。静流さんは俺の手を握りしめたまま、小刻みに震えていた。
「……静流さん?」
「いる…沢山…い、今まで視線だけだったのに…」
静流さんはすがるように腕にしがみついてきた。顔を伏せかけた彼女の顎に、俺は思わず手をあてた。
「よく視て。今だけは逃げちゃ駄目だよ」
「……はい」
震えながら、彼女はおずおずと顎を上げた。目尻に涙が浮かんでいる。その冷たい手をしっかり握ってあげることしか、俺に出来る事はない。奉の奴は興味深そうに彼女を凝視するばかりだし。…俺の周りにはどうして、凝視する奴ばかりなのだろう。
橋を通り過ぎた瞬間、静流さんの躰から一気に力が抜けて崩れ落ちた。
バスは俺たちを残し、砂埃を巻き上げて走り去った。
連れの具合が悪くなったから、と説明して、次の停留所に着く前に降ろしてもらったのだ。俺と奉は近場の喫茶店に、気絶寸前の静流さんを担ぎ込み、彼女が落ち着くのを待っていた。
「……人、でした」
バスの窓から覗き込む、大勢の人でした…ココアを一口飲んで(気絶寸前だというのに『珈琲苦手で甘いのがいい、あればココア希望』としっかりリクエストしていた。何なんだこの子)静流さんは呟いた。
「思ったより普通の人たちで…なんていうかその、恨めしいとか憎いとかそういう感じ、全然なくて」
「ただ、興味深々って感じだった…かねぇ」
奉が珈琲に角砂糖を落とした。2粒も。
「そう、覗き込むように。…そう、中に珍しい物でもあるみたい
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ