暁 〜小説投稿サイト〜
霊群の杜
目々連
[2/9]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
思っていたのだ。


それが、良くなかった。


「お二人がコンビを組んで拝み屋をやっているって噂を聞いて…青島さんは達人級の匕首使いで、祓い師の奉さんを守る役割だって聞きました」
「なにそれ!?」
うわぁ色々初耳なんだが。
「10月24日に漁に出た漁船に乗り込んだんでしょ」
「うん…成り行きでだけど…」
「あの日、船幽霊に襲われたって」
…茶を吹きそうになった。口止めの余裕などなかったし、俺は勝手に口止め不要と思い込んでいた。俺なら誰にも話さない、そんな己の正気を疑われそうなことを。
「……只の影だよ、霧、深かったし。霧に映りこんだ影…」
苦しい言い訳をしたが、眼鏡の彼女は聞いていないようだ。
「青島さんが飛んでくる殺人魚を、一つ残らず斬り落としたって…」
さ、殺人魚…。綿貫、あいつどんな解釈したんだ!?
「あれ只のダツだよ!?」
他の人から見たら俺も含めて完全に怪現象なので、船頭に説明する際『ダツの群れに巻き込まれて逃げ遅れたから止むを得ず匕首で斬った』と伝えた。その際きじとらさんが懐に忍ばせていた匕首を見せて無理矢理納得してもらったのだ。
考えてみればあんだけ飛来したダツを残らず筒切りって、達人呼ばわりされても仕方ない。
「青島さんが斬り込んで、玉群さんが妖を断つ…っていうコンビネーション、なんですよね」


―――え、俺そんなヤクザの鉄砲玉みたいなポジション?


「…えー、何か色々誤解があるみたいなんだけど」
「そこら辺の真偽は一旦、脇に置いて」
それまで一言たりとも口にせずに黙々と茶を啜っていた奉が、突然口を開いた。
「あんたは一体、何を云いに来たんだ?相談というのは何だ、船幽霊の話でも聞きたいのかねぇ」
ちょっと聞いた感じでは、随分な切り口上に聞こえるが、俺には薄々分かる。
こいつ、この状況にちょっと興味を持ち始めているな。
「えっと、その…あの…」
切り込まれるや否や、眼鏡女子は急にあたふたし始めた。
「あの、そういうんじゃなくて…えっと…」
テンパり始めたぞ、眼鏡女子。
「どこから話そうかな、えっと…えっと…」
「……早くせんかい」
……あ、奉がイラつき始めた。
「ごめんなさいごめんなさいっ!えと、ど、どこから…」
「落ち着いて、大丈夫だから。…まずは君の名前から」
なんか見ていられなくなって助け舟を出した。眼鏡女子は大きな目を潤ませて俺の方に身を寄せて来た。…経験則上、知っている。これは別に、俺に好意を寄せているとかではなく『こっちは安全なひと』と判断されただけなのだ。
そして安全な異性は、恋愛対象にされにくい。
「―――八幡、静流…です」
静流さん…いい名前だ。
「ふん、八幡…随分大仰な名前だねぇ」
「…ごめんなさい」
「対抗意識を燃やすな」

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ