最終話 本日天気晴朗ナレドモ波高シ
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と出会えたのですから。短かったけれど・・・・私の生涯はとても幸福でしたわ。』
『紀伊!』
ひときわ大きな声が耳元で響いた。尾張なの、と紀伊はつぶやいた。
『何をしているの?艦隊旗艦たるものが、紀伊型の長女たるものが、いつまでも悲しんでいるんじゃないわよ。しっかりしなさい。そんなことだから、いつまでも私からバカにされるんだわ。』
(尾張、でも、あなたと近江だけ死なせて、私だけ生き残ったって・・・・。)
紀伊は思わず心で答えていた。
『まだ讃岐がいるわ。あなた自身もいる。紀伊、言ったでしょ。私は最後の最後で、あなたと共にあれてよかったって。それは今のしおたれたあなたと一緒にいることがよかったんじゃないわ。私をビンタして叱咤して激励して、先頭に立って戦った紀伊型空母戦艦の長女と共にあれて良かったって言ったのよ。』
(・・・・・・・・・・。)
『その腕じゃ、もう戦場に立つことはできないかもしれない。けれど、あなたにはまだこれからの人生がある。後進を指導するのもよし、艦娘ではない自分自身の人生を新たに進むのもよし、何でもいいけれど、お願いだからしおたれたままで人生を無為に過ごすのは勘弁してよ。それこそ私が一番ムカつくことなのだから。』
(尾張・・・・。あなたはもう私なんかよりもずっと立派だわ・・・・。)
胸が喉がつ〜んとしていた。
(駄目なお姉ちゃんよね。わざわざあの世から叱咤されるなんて・・・でも。)
紀伊はぎゅっと目をつぶり、感情の奔流をこらえた後、不意にとても澄んだ穏やかな顔に戻った。
(約束するわ。讃岐と二人、あなたたちの分まで生きるって。人生を無為にせず、進んでいくと誓うわ。だから、見守っていて。遠からず、いいえ、いつかきっとあなたたちのもとに戻った時・・・・その時はまた4人で艦隊を組みましょう。紀伊型空母戦艦の4姉妹として。)
その思いにこたえるかのように、勢いよくさぁっと吹き抜けた風は紀伊の銀髪をなびかせ、まるで歌うように声を上げ、高らかに青空へと吹き抜けていった。
* * * * *
4か月後――。
うららかな春の陽気の元、呉鎮守府は満開の桜の見ごろを迎えていた。鮮やかな花びらが湧きあがる風に舞い上がって埠頭まで飛んでいく。その下には――。
「元気を出して。」
紀伊が優しく妹を慰めていた。
これから讃岐は、艦隊を率いて、ノース・ステイトの艦娘たちとともにグランド・ブリタニカに向かう。そこでは深海棲艦の跳梁が報告されていて、ノース・ステイトの援軍さえも手を焼いていた。
太平洋上の深海棲艦が撃滅された今、残るは大西洋方面の深海棲艦たちだった。そのため、ヤマトは艦娘たちを遠征艦隊としてグランド・ブリタニカに派遣することにしたのである。
その旗艦として、讃岐が選ばれたのであった。紀伊型空母戦艦
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