最終話 本日天気晴朗ナレドモ波高シ
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伊という艦には出会ったことなどないという。まさに「幻の特務艦」だった。そして、奴自身もとても怯えていて不安そうだった。空っぽの自分に。
幻の特務艦か、本当にそうだ。考えて見れば、奴の登場からすべてが変わっていった。奴は身を挺して、艦娘たちの、そしてヤマトの意識を変えた。過去を持たなかった奴が自分の意志と力で道を切り開いた。俺なんかにはとてもできない。
俺からはこんな月並みな言葉しか出てこない。だが、あえて言う。
もう充分だ。本当によくやったな、ありがとう。紀伊。
* * * * *
どうしてこの曲が選ばれたのだろう――。
紀伊は大々的な慰霊祭に出席しながら、思っていた。
イージス艦上に巨大なパイプオルガンが設置され、それを囲むように大小の艦艇が並び、艦娘がと列している。
That saved a wretch like me!I once was lost but now I am found
Was blind, but now I see・・・・・。
イージス艦上にたった金剛が高いソプラノの声でアメイジング・グレイスを歌っている。その荘厳な音調は聞く人の胸を打ったが、この曲の意味を知る人がいれば、艦娘たちの心境とかい離していると指摘するだろう。
艦娘たちの心のうちには、達成感も充足感も悟りも神への賛美さえもなく、空虚、ただ空虚だけがあるばかりだった。
パイプオルガンを弾いている榛名もただ一身に引いているが、その表情は時折悲しみに沈む。
艦娘たちにとって、今必要なのは、華やかな式典でも華美な歌でもなく、ただ休息が、そして時間が欲しかったのである。
膨大すぎる負の感情をできる限り整理し、少しでも傷をいやし、再び前を向いて歩いていくために、準備する時間が・・・・・。
『大丈夫ですよ。』
不意に紀伊はどこからか懐かしい声が聞こえてきた気がして、ふと周りを見た。それは紀伊だけではなかったのかもしれない、他の艦娘たちの中にも何人かが不意に周りを見まわしだしたからだ。
『私たちはいつでも・・・・そばにいます。声は届かないかもしれません。けれど、思いはいつもあなたたちと共に・・・・。』
それは綾波の声だった。いや、綾波だけではない。
『お前たちがいつまでも悲しんでいては、こちらも申し訳ないではないか。しっかりしろ。』
『だらしないなぁ、そんなことじゃ多門丸から喝を入れられるよ。』
武蔵だ、飛龍だ。皆が皆その声をはっきりと聴き分けられたというように目を見開いている。
『紀伊姉様。讃岐。』
穏やかな声がした。そばにいた讃岐がぎゅっと紀伊の手を握りしめた。
『どうか悲しまないで。わたくしたちはとても幸せです。こんなにも思っていてくださる皆様
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