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艦隊これくしょん【幻の特務艦】
最終話 本日天気晴朗ナレドモ波高シ
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。初めてあそこに入った時には、全身が震えてどうしようもなく、初めて出撃した時は膝の力が抜けそうなほど緊張していた。
「でも、ある時から違うと思ったの。それは前に榛名さんがおっしゃってくれたから。私は私、皆は皆だって。」
鎮守府さくら祭りで、コンサートに向かう途上、榛名が言ったことがある。


『違って当たり前、それでも姉妹なんです。それでいいのではないでしょうか。』


一人一人に個性がある。欠点もあれば長所もある。月並みな表現だけれども、誰しもが完璧になる必要はないのだ。


それらを全部ひっくるめて自分をすっかり知ったうえで、力の限り動き続ければいいのだから。


「・・・・・・・。」
讃岐は風に髪をなびかせて鎮守府を見つめ上げる姉の横顔を見つめていた。出撃できなくなり、仲間、姉妹を失ったというのにその横顔はとてもとても澄んでいた。それはきっと、と讃岐は思う。いろんな悲しみがいっしょくたに胸の中で渦巻いているけれど、それを表に出さない強さを紀伊姉様は持っているのだと。そして今までの経験で紀伊姉様なりに悟った一種の哲学のようなものがあるのではないか、と。
 紀伊は讃岐に視線を戻した。穏やかな灰色の瞳が優しく、それでいて力強く妹を見つめていた。
「讃岐、あなたはあなたとして艦隊旗艦を務めなさい。私のようにならなくていい。私になくてあなたにあるところは沢山あるのだから。模倣なんかしないで。あなたはあなたらしく皆をひっぱっていければそれでいいのだから。」
「はい、姉様・・・・あれ?」
讃岐は自分の頬に手を当てて驚いた眼をした。それを見た紀伊が不意に近寄って讃岐を抱きしめた。
「ごめんなさい。」
ようやく讃岐は体を離した。
「なんか変ですよね。旗艦がないてちゃ駄目ですよね?」
「今はいいわよ。まだ出撃していないのだもの。その代り――。」
「はい。」
讃岐は大きくうなずいていた。いったん洋上に出れば、艦娘として、旗艦として職責を果たさなくてはならない。そういうことですよね、姉様、と讃岐は思いながら姉を見ていた。その時、11時を知らせる鐘が鳴った。
「時間よ。頑張ってきて。大丈夫、あなたなら・・・ううん、あなただからできるのだから。」
「はい!」
讃岐は最後に紀伊の手をしっかりと握ると、発着所に向かっていった。

天気は快晴だったが、波は高い。ここしばらく続いた春一番の影響だろうか、だがそれも穏やかになりつつある。横須賀鎮守府から来る艦隊と合流する頃にはもう大丈夫だろう。

本日天気明朗ナレドモ波高シ、と紀伊はつぶやいた。

かの有名な日本海海戦の際に、秋山真之が出撃前の電文を起草した。そのうちの一文である。前世連合艦隊総旗艦である梨羽 葵はこの銘文を気に入っていて、時折口ずさむので、紀伊も覚えてしま
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