174部分:遺志その三
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遺志その三
「これは・・・・・・アメジスト!?」
トラキアでは最も高価とされる宝玉であり父が愛する娘にこの世を去る時最後の贈り物として渡すものである。
「おわかりですね、この意味が」
「・・・・・・将軍」
力を振り絞るような声を発した。
「・・・・・・ここで一人にして頂けませんか」
「・・・・・・はい」
彼女はそう言う事を察していたのだろう。ハンニバルは頷くとゆっくりと踵を返し姿を消した。
「・・・・・・・・・」
何も言わない。否、何も言えなかった。黙したまま立っていたがやがて瞳から涙が零れてきた。
「ちち・・・・・・うえ・・・・・・」
涙が止まらない。とめどなく流れて来る。
「ひどい人・・・・・・。最後まで私を騙していたなんて・・・・・・。けれど・・・・・・けれど・・・・・・娘として・・・・・・自分の娘としてこのアメジストを・・・・・・・・・」
両膝を地に着けた。両手も地に着けしゃがみ込んだ。
「私は・・・・・・父上の娘、ですね・・・・・・」
右手に持ったアメジストに涙が一粒落ちる。涙はアメジストを伝い紫色に輝きながら地に落ちていく。
「うっ、うっ、うっ・・・・・・・・・」
最早声にならない。幼子のように嗚咽を繰り返すだけであった。
これ以降アルテナは首にアメジストを架けるようになった。彼女はそれを身体から離す事無くヴァルハラに旅立つ時にも彼女の首にその水晶はあった。
トラキアにおける戦後処理と軍の再編成を終えたセリス達解放軍は帝国のユリウス皇子がその素性の知れぬ怪しげな側近達と共に駐留するミレトスへ進軍しそこからグランベル本土を衝くべくミレトスとの前線基地であるメルゲンへ向かった。途中多くの志願兵やミーズ等トラキア北方に配していた将兵達と合流しターラに到着した。
解放軍はターラでシレジアの反帝国軍がグランベルとイードの境にあるヴェルトマー家の砦を陥落させた事、アグストリア、ヴェルダンにおける反乱軍がユングヴィとヴェルダンの境であるブラウクロイツ河を挟んで帝国軍と対峙している、といった大陸の状況についての情報を知った。帝国はいよいよその命脈を絶たれようとしていた。
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