173部分:遺志その二
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遺志その二
「絹・・・・・・だね」
「そうだ。これが蚕の卵だ。トラキアのミーズ北は桑の森であり絹の養殖に最も適していると思っていた。必ずや絹の一大生産地になる。これでトラキアは以前とは見違える程豊になるぞ」
「レヴィン、そこまで考えていたなんて・・・・・・」
「セリス、国を豊かにするのは何も戦争をするだけではない。産業が無いならば興せばいいのだ。トラバントはその術を知らなかった。あの男はあまりにも軍人であり騎士でありすぎた。それがあの男にとっても悲劇となったのだ」
批判的でそれでいて哀しみの色が入った声で言った。
「だがこれでトラキアの民も貧しさに喘ぐことも無くなり半島に今までのような緊張が続くことも無くなる。悲劇が繰り返されることは起こらない」
レヴィンの言葉通りこの大戦の後トラキアにも作物が実り家畜の鳴き声が聞こえ蚕が繭を作るようになった。
『この時よりトラキア半島は真にダインとノヴァが愛したトラキアとなった』
これは後世のある高名な歴史家の評である。トラキアの民達も夢を手に入れる事が出来トラバント王の悲願も達せられたのである。彼等トラキアの民達は彼等の幸福の為に哀しみを背負い戦い続けた飛竜に乗った王と彼等に幸福を与えてくれた緑の風を使う王を何時までも忘れることはなかった。
「・・・・・・何と呼べばいいのかしら」
アルテナは一人城の外にあるトラキア王家代々の墓の前で立っていた。
「父上・・・・・・。いえ、父上と母上の仇・・・・・・。一体どちらなの・・・・・・」
王の墓を前にポツリ、とそれでいて苦しく言った。心の中に幼き頃よりの思い出が甦ってくる。
どれ程疲れていても自分と兄の相手をしてくれた幼い頃、厳しく武芸と学問を叩き込まれた少女の頃、今手に持つゲイボルグを授けてくれ常に兄と共に側に置かれていた今まで、その全てがあってこそ今の自分がある。それはわかっている。
「けど・・・・・・」
イード砂漠で父と母を騙し討ちにしレンスター王家を滅ぼし多くの民を殺したのも彼なのだ。密かにそのことで心を痛めていたがまさか自分自身がレンスター王家の者であったとは思わなかった。それがわかった時今まで在った世界が砕け散ったのを悟った。そしてそれが二度と元に戻らないという事も。
「結局私はトラキアにとって仇の国の者。利用される為だけに育てられた使い捨ての駒だったのかしら」
「殿下、それは違います」
誰、と声がしたほうを見た。そこにはハンニバルがいた。
「将軍・・・・・・」
「陛下は生前私に言われたことがあります。もし自分に何かあれば子供達を頼む、と」
「子供・・・・・・達・・・・・・!?」
「はい。アリオーン様と殿下を最後まで盛り立てて欲しい、と。・・・・・・そして御二方がその翼をもって羽ばたくのを見守ってくれ
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