クラエス その後
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走ったり、お仕事したりして楽しかったんです」
このお人好しは、自分が彼の息子の代わりにされたのを、悪く思っていないらしい。
「リコ?」
「エヘッ、私に男の子の名前を付けたのって、そう言う意味だったんですね。それに私が負けないように、強くなるように鍛えて下さったんですよね」
そこで金髪の担当官が崩れ落ちた。確かに私のように汚い手段で罠にはめようとすれば、こうはならなかっただろう。
リコのどこまでも純粋な心と、あどけない表情があったからこそ、この冷血な男に悔恨の涙を流させる事に成功したのだ。
「すまない…… 本当に、すまなかった」
「いいんですジャンさん。いいえ、お父さん」
父と呼んだのは私、この男を絡め取るために使った汚い言葉、だがその一言は、ついにこの男を私の前に跪かせた。
「私を、父と呼んでくれるのか?」
私の中のリコは今の呼び方をとても気に入っているようだ。この男に抱き付いて涙まで流している。やめなさいっ、まだこの男を許しては駄目!
「はい、お父さん」
でも、それはもう続けられそうに無い。リコの中に芽生えた暖かい物が、私の持つ黒い感情を消してしまったからだ。
この子達は私から生き甲斐を奪ってしまった。策略という名の菜園を世話し、復讐の甘い果実を収穫しようとした私を邪魔して、愛と呼ばれる下らない実を実らせようとしているのだ、全くお人好しにも程がある。
「これからは私が、私達がお前を守る、守って見せる」
「はい……」
こうして私には、2人の父親と2人の兄が出来た。いつか永い時が過ぎ、謝罪と贈り物の山が積み重なった頃、私は彼らを許せるかも知れない。
その時、この体が許すなら子供を産む事にしよう。2人は女の子、他の3人は男の子の方が良いと思う。
公社とて、記憶の繋がりの無い子供の生活にまで制限を加えたりはしないだろう。そしてその保証は、あの子達の父親に取って貰うつもりだ。
私は毎朝目が覚めると、まず自分の体が自由に動く事に感謝する。
そして幸せの魔法が掛かった紅茶を飲み、嫌いになってしまった野菜を残しながら食事を採る。
午後に日課である菜園の世話を済ませ、夕食が終わった後、眠くなった私は本に栞を挟んで早めにベッドに入った。
「おやすみなさい、ラバロさん」
クマの縫いぐるみの一つに声をかけて目を閉じると、あの懐かしい日々が思い起こされた。いつかまた、あの賑やかなお茶会を開く事ができるだろうか?
幸い私は無為に時を過ごす方法を知っている。
それは遠い昔、父親のようなあの人に教えてもらった事。
この命と名前をくれた大切な人が、一粒の麦となって私に遺してくれた、素晴らしい物。
終
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