クラエス その後
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て、変な顔を映してやると降参したので昨夜は二人で語り明かした。
「いいじゃないですか、こう言うのって順番でしょ? 夏の間ぐらい、私も昔の格好してみたいし」
「おいおい、夏だけなのかい?」
少し落胆したように笑って言ったヒルシャーさんだが、暫く昔通りの関係を堪能させてあげると、この人の目も狂って行くのが見えるようだった。
ヒルシャー先生による個人授業の結果、私が3ヶ国語を使いこなせるようになると、以前は躊躇していた呼び名を使うようになった。
この私に向かって「トリエラ」と言ったのだ。他の担当官と同じ、薄笑いを浮かべた奇妙な表情で。
その後、担当官達の働きかけにより、私は部品のテストからも外され、公社の中で軟禁されるだけになった。どうやら課長の犬よりは大切に扱われているらしい。
相変わらずジョゼさんは、私をカフェやレストランに連れ回しているので閉塞感は無かったが、ヒルシャーさんが私を着せ替え人形のように扱い始めた。何か対抗意識でも芽生えたのだろうか?
マルコーさんのおかげで蔵書にも不自由していないが、絵本のような程度の低い本を、わざわざ朗読して聞かせるのは勘弁して欲しい。
もっとも、アンジェとして話している時の言葉は幼く稚拙なので、私の知能はその程度だと思っているのかも知れない。
やがて秋になり、肌が白くなって来た頃、金髪のまま三つ編みにしてみた。
しかし誰も喜んでくれる人はいなかったので、三つ編みを切り落として短く刈った数日後、公社の通路で金髪の担当官に出会った。
「…………」
呆然として、亡霊でも見るように私を見下ろし、手に持っていた書類を無様に落とした彼。 その書類を拾い集めて手渡すと、ようやくその口が動いた。
「いたんだ……」
「何がいたんですか? ジャンさん」
この声を出すのは初めてのような気がする、普段お茶会で話している時とは違う、緊張したリコの声。
「私にも子供がいた…… もし生きていれば、そのぐらいの年頃になっていたはずだ」
肝心な言葉は抜け落ちていたが、彼の弟からの情報によると、亡くなった奥さんと、お腹の子がいたらしい。名前は多分、リコ。
それがジョゼさんの姉と甥になるのか、詳しい事まで教えてくれなかったので分からないが、二人とも共和国派のテロで犠牲になったそうだ。
「私はお前達を利用して復習を果たそうとした、そしてその引き金は、リコ自身に……」
彼は彼なりに、家族や親しい知人を失った時の苦痛から逃れるため、あらかじめ境界線を引いていたのだろう。
それがリコへの態度の理由? いいえ、その程度の苦しみでは決して許しはしない。
だがそこまで聞いて、私の中のリコが勝手に口を開いた。
「いいんです、私、自由に動けるようになってすごく嬉しかったんです。 みんなと一緒に
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