クラエス その後
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ボンと上着には気付いたらしい。
「何のつもりだっ、クラエスッ、性質の悪い悪戯はやめろっ」
虚勢を張って声を荒げるマルコーさんだが、その目にある怯えの色は隠せはしない。
「ビアンキ先生やジョゼさんから聞いてませんか? 私はエッタであり、アンジェでもあるんです」
「違う、違うっ」
声もアンジェ、表情もアンジェ、そんな私から逃れるように席を立ったマルコーさん。
そこで片手を差し出して触れようとすると足がもつれたのか、マルコーさんはその場で尻餅をついた。
「うふっ、「そんなフラフラじゃ足手まといになるだけだ、着替えて走って来い」でしたか?」
あの場所にいた二人だけが知っている言葉、何故それを私が覚えているのかは分からない。でも、突き放されて寂しかった事だけは、この体の震えが教えてくれる。
「本当に、アンジェ、なのか……?」
「ええ、マルコーさん」
とびきりの作り笑いを返すと、彼も納得してくれたようだ。何ならこの場で彼らの作った稚拙な童話を朗読してやってもいい。
それから、寂しくなっていた私達の部屋には新しい創作絵本が届き、テーブルの空席には昔と同じ頭数のクマのぬいぐるみが座るようになっていた。
「エッタ、お砂糖入れ過ぎ」
「え? でも味とか良く分からないし」
「やっぱりエッタは砂糖女と呼ぶ事にしよう」
「それ、何かおいしそう」
4人分の言葉が私の口から出て行く。私は狂っているだけなのだろうか? それでも構わない、この狂った世界で生きて行くには、それが正しい方法なのだから。
しかし私は練習もせずにアマティのバイオリンを弾けるようになり、ジョゼさんを喜ばせる事も出来た。
読んだ覚えも無いパスタ王国のお話を諳んじ、マルコーさんを泣かせる事も出来た。
まだ三ヶ国語を操るのは難しいが、基本は文字通り体が覚えている、使えるようになるのも時間の問題だろう。
ある夏の日、よく日焼けしていた私は、脱色した茶色の髪を金色に染め直し、ツインテールにまとめてみた。だがそれは「私の担当官達」には不評だったようだ。
「ヘンリエッタ、どうして髪を染めたりしたんだ? 栗色の髪の方が似合っていたのに」
「いや、アンジェはやっぱり黒髪だ」
担当官には私を呼ぶ時、自分のフラテッロの名で呼んで貰っている。
あの子達の扮装をすると始めはよく間違えられたので、止めないでいると自然にこうなった。
彼らにも、この狂った芝居に参加して貰っている訳なのだが、髪型を変えて表情を別の人格に委ねると、自分でも気味が悪いほど似ている時がある。
昨日、この服に着替えてネクタイを結んだ時、鏡の中に懐かしいルームメイトを見付け、泣きながら笑い合った。
呪いでも掛かったように成長しない体、やつれて酷い顔になった私を指差して笑う戦友に抗議し
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