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ガンスリンガーガール短編
クラエス その後
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で声が口から出て行く。喉の筋肉の持ち主が以前そうしていたように。
 そこで自己主張を始めた震える両手に自由を与えると、彼の手を取って愛おしそうに頬擦りを始め、手の甲と袖を涙で濡らした。
 そう、私は自分の意思で体をコントロールできていない。人工筋肉が記憶していた動作を容認しているだけなのである。
 そして体からの感情は表情をも変えさせ、エッタと同じ縋るような目で彼を見上げた。
「ヘンリエッ…… いや、すまないクラエス」
 狼狽した表情で彼が私から目を逸らす。失った妹の代役を立てるのを申し訳ないと思っているのだろうか? だがそれは間違っている。
「いいんです、ジョゼさん。私は、エッタはここにいます、ここに」
 抱えた手を胸に引き寄せ、心臓の鼓動を伝えた途端、彼は駄目になった。
「へ、ヘンリエッタッ」
 その場に座り込んで私を抱き締め、肩に顔を埋めて泣くジョゼさん。他の職員が怪訝な顔をして通り過ぎるが、それすら気にならないらしい。
「ジョゼさん……」

 巷では心臓を移植された者は、元の持ち主のような人柄に変わると言う俗説がある。
 それは単に心拍数や血圧の変化により、嗜好が影響を受けるだけと言われるが、筋肉に情報を伝達するには神経細胞が必要であり、それは脳や脊髄の延長でもある。
 僅かな神経細胞に残されたあの子達の大切な記憶は、今も私の胸を締め付け、彼らの心も翻弄する。
「もう僕の前から消えたりしないでくれっ、少しでも、ほんの少しでもいいから残っていて欲しいっ」
 懐かしい香りを鼻腔に感じながら、まるで母親のように彼を抱き、頭を撫でて落ち着かせる。
「はい、ずっと一緒です」
 哀れな操り人形だった私。だが操者が居なくなった今、その操り糸を亡き戦友達が握ってくれているのが心の支えでもある。
 しかし、条件付けが薄れ、正気を取り戻し始めた私は、まだ彼らを許せないでいた。
 他の担当官にも同じ思いをさせておく必要がある。特に金髪の担当官には念入りに思い知らせてやらなければ気が済まない。
 彼の望みである復讐を果たしたこの耳の持ち主に、謝罪の言葉と愛の言葉の1ダースも聞かせてやりたい。

 それ以降、ささやかなお願いや、おねだりでジョゼさんを操れるようになった私は、眼鏡を外して前髪を切り揃え、髪にリボンを結んだ。
 眼鏡を外す、それは私にとって戦いの始まりを意味した。
「失礼します」
 担当官や職員の部屋を回り、私が焼いたケーキを配る。儀体棟の人数が減ってからは頻繁に行っていた作業だが、毒を入れたりはしない。
 だが今日の私の扮装は、その担当官にとって猛毒だったようだ。
「アンジェ……」
 普段はこちらを向こうともせず、「そこに置いといてくれ」としか言わないマルコーさん。 それでも視界の端に見えた、アンジェのズ
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