クラエス その後
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アンジェが眠った数年後、他の子達も一人、また一人と旅立って行った。
あの子達は何のために生まれて来たのだろうか? ある者はこう言った。
「彼女達は悪しき者を摘み取るため、この世に遣わされた天使だ」と、「そして役目を終えた天使達は、穢れた世界から召されて天国に帰ったのだ」と。
誰がそんな戯言を信じる? 自分達の行いを正当化しようとする表面だけの慰めの言葉では、あの子達は救われはしない。
しかし、後になってその原因が突き止められ、ドクタービアンキから説明を受けた。医学的な難しい内容は分からなかったが、こう言う事らしい。
人は常に苦痛に晒されている。大気圧に押し潰され、重力に縛り付けられ、息をするにも歩くにも苦痛を伴う。
普通の人間は、それが痛みと認識されないよう、脳の中で調整が行われているが、私達は撃たれた時にも冷静に行動できるよう、表皮と筋肉の痛感は最小限に抑えられていた。
人工筋肉により月面を歩くように軽やかに歩み、日常の動作が何の苦も無く行える。それは痛みと共に刷り込まれる記憶にとって、大きな障害を伴っていた。
そして苦痛に抗うように生きる生物は、痛みを奪われ、赦しにも似た癒しが与えられた時、生き抜く事をたやすく放棄する。
かく言う私もあの子達と同じ体を持っていたが、度重なる手術と耐久テストが皮肉にも私にだけ免罪を与えてくれなかったのだ。
それからの私は儀体を永く生かすための実験体となった。
再び痛みと共に生きて行く事を強要された私は、あの子達の記憶を持ちながら歩いて行かなければならない。
それは一人で歩くには辛い道のり、一度痛みの無い体を持ってしまった私にとって荊の道を歩くような苦行。
そこで私は自分を維持するため、あの子達の残した遺品を求めた。 消耗した体は保管されていた部品と取り替えられ、私は次第に暖かい物で包まれて行った……
「やあ、クラエス、体の調子はどうだい?」
妹を失って以降、この担当官は特に優しく接してくれた。エッタの部品を持つ私に、在りし日の彼女を重ね合わせているのかも知れない。
「はい、おかげ様ですっかり良くなりました。脳が学習したって言うんですか? これからは痛み止めも減らして様子を見るそうです」
そこでまた視界が歪み始めた。この褐色の瞳は、眼底に焼き付いているこの人の姿を映すと、だらしなく涙を流そうとするのだ。
以前なら逃げるように走り去れば涙も動悸も治まった。しかし今日は両足の持ち主がそれを許してくれそうに無い。
「どうしたんだ? どこか痛むのかい?」
曇り始めた眼鏡を外すと、彼がハンカチを取り出して涙を拭ってくれた。痛い、胸の奥が締め付けられるように痛い。
「いいえ、そうじゃないんです。私、私っ」
普段の私からは考えられないような猫撫
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