序章 二人の出会い - 森の町チェスター -
第1話 海溝
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な大きな声で言うことないじゃないか……」
恥をかかされたかたちのシドウは、困惑と若干の迷惑を声に乗せて抗議した。
「あはは、ごめんごめん」
「冒険者って、そういうことを詮索しないものだと思っていたけど」
「そうだけど。なんか怒らなそうな雰囲気だったから!」
「……」
「ウフフ、シドウくんの恰好についてはここでもたまに話題になっていたわよ。『乞食をきれいにした感じ』みたいだって。私も少しもったいないと思うわ。せっかく顔はまともなのに」
「お姉さんまでそんなことを……。売っている服でこれが一番安かったんです」
受付の女性の追撃に対応するシドウ。
ティアはその隙に右手でシドウの服の袖をつまみ、生地の触り心地を確かめる。
「うわあ、やっぱりひどい。いま報酬もらったんでしょ? それでもっといいのを買えばいいじゃない。それとも博打漬けで借金でもあるわけ?」
「いや、それは余計なお世話というか」
完全にペースを乱されていると判断したシドウは、
「恰好の話はもうやめよう」
と言ってティアの手を引き剥がした。
「お姉さん、次の仕事を受けさせてください。さっき掲示板を見てもう決めていますから」
シドウは先ほど出した紙とは別の紙を、カウンターの上に置いた。
「あら、もう次の仕事にかかるのね? 本当に真面目ね。ええと――」
「あ、それわたしもついていっていい? パーティ組もうよ、パーティ」
横から紙を覗き込みながら、ティアがそう提案してきた。
「ティアさん」
「ティアでいいよ!」
「じゃあティア。お断りするよ」
あっさり断られたティアは、頬を膨らませて抗議した。
「ひどい! パーティの誘いをこんなに簡単に断るなんて。自分より低級だから要らないってこと? 最低!」
「そういう意味じゃないよ。俺は諸事情でパーティをまだ組まないようにしているんだ」
「ウフフ、たしかにシドウくんはいつもソロでやっていたわね。でも、たまにはこういうかわいい女の子と仕事するのも悪くなくてよ?」
「いえ。女の子だとなおさら」
「やっぱりひどいじゃない! 女は邪魔だってこと?」
気づけば、待合室にいる冒険者――主に男たち――から、今度は
「なにいじめてんの?」
というような、非難の視線がシドウに向かって送られていた。
「だからそれは受け取りかたがおかしいって……。だいたい、今のやり取りだけでもなんとなくわかるけど、たぶん俺と君との間には海溝のような深い溝がある。パーティを組んだとしても合わないよ、きっと」
「カイコウって何?」
「海溝は海の中にある大きな谷のような深淵のこと。そこまで潜れないから、実際に見た人はいないけど。理論上は存在する」
「へー!
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