159部分:父と子とその一
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
父と子とその一
父と子と
ートラキア城ー
“父上、またあのお話を聞かせて下さい”
父の手に抱き付き話をせがむ少女の頃の自分がいた。兄はそれを咎める。だがちちはそんな兄も自分の隣に座らせ話をはじめたーーーー。
懐かしい光景だった。いつもそうやって父や兄に甘えていた気がする。だが今はーーーー。
「アルテナ、起きるんだアルテナ」
聞き慣れた自分を呼ぶ声がする。ふと目が開いた。
そこには兄がいた。心配そうに自分を覗き込んでいる。
「よかった、気が付いたか」
表情が安堵したものになる。どうやら今まで気を失っていたらしい。
「ここは・・・・・・」
辺りを見回す。見慣れた家具が置かれている。そして軍服とマントのままベッドの上にいる。自分の部屋だった。
「急所は外したつもりだったがな。強く打ち過ぎたか」
思い出した。逆上して父に斬り掛かろうとして兄に打ち倒されたのだ。
「兄上・・・・・・くっ」
胸がズキッ、と痛む。咄嗟に胸を押さえ蹲る。
「大丈夫か。何しろ私の剣撃をまともに受けたのだ。無理はするな」
「はい・・・・・・」
痛みが収まった。壁を見た。掛けられているトラキアの旗を見て思い出した。
「そういえば父上・・・・・・、いえトラバント王は?」
兄はその言葉に顔を暗くした。
「戦死された。リーフ王子との一騎打ちの末にな」
「・・・・・・・・・」
見れば兄の手にあの槍がある。わかっていた。その姿が見えなかった時から。だがそれが現実だと理解した時胸を痛みが襲った。いつも反発しあの時は剣さえ向けたというのに。憎しみも恨みも無かった。哀しみだけがあった。
「そう、もういないのね・・・・・・」
アルテナの瞳を哀しみが覆っていく。アリオーンはそれを見つつ言った。
「リーフ王子のところへ行ってやれ。彼もそれを望んでいる」
彼はそう言って背を向けた。肩で話しているように見えた。
「兄上・・・・・・」
「何だ」
「兄上も・・・・・・」
「・・・・・・私もそうしただろう。父上の最後の御言葉を聞くまではな」
「そんな・・・・・・」
「早く行け。これが私が御前にしてやれる最後の事だ」
必死に何か言おうとする。だが言えなかった。
「行くんだ」
アリオーンもそれ以上語ろうとしなかった。アルテナは扉へ歩いていった。その脇にあの槍が置かれていた。
手に取ってはいけない、だがとらざるをえなかった。
アルテナは槍を手に取ると部屋を飛び出した。アリオーンは最後まで振り返らなかった。
何処をどう行ったのだろう。気が付くと竜に乗り天にいた。
王宮を見る。だが全てを振り払い飛び去った。飛竜は北へ向け消えて行った。
(ゲイボルグ、私を導いて)
槍
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ