第一部
1章:新天地の旅
4話 異世界の女流騎士
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兵士が一番驚いたのは、その顔だった。
自分の姿を貫かんばかりに向けられる瞳の青にそぐわず、柔らかそうな頬も、ぷっくりと健康的な唇も、つやつやの肌も、明らかに幼すぎる。それなのに、有象無象の後輩兵士とは比べ物にならないほど重い雰囲気をまとっていた。それこそ、呼び出される前の世界で、自分と同じように兵士だったのではないかと思えるくらいに。
そして、彼女の考えは正しかった。
「ウェルクセル遊撃軍孤児特務隊大尉エドアルド・サリッジ。自由のため、押し通る」
最初で最後となるだろう前世の階級という口上を述べ、スーツの力は使わずに一歩を踏み出す。
突進の勢いを乗せた薙ぐ一撃。
「はやッ――」
女騎士が驚愕の声を上げ、それでも反射的に剣を持ち上げる。
さすがは歴戦の勇士……といったところだろう。たった一人で最後の防衛線を任されているだけあって、それに見合う動きを見せた。襲いかかるブレードは完全に防がれることだろう。
だがブレードと剣がぶつかり火花を散らす寸前で、エドアルドは振るう腕を止めた。
彼の持つ高周波ブレード『空心《うつごころ》』は細く薄い。兵士の持つ細いものの厚みのある剣とまともにぶつけたくは無かったのだ。
多少欠けても空気中の炭素分子によって修復されるとはいえ、やはりそれも一瞬ではない。これから未知なる世界(魔法使いたちの知識である程度は知っているが)へ踏み出そうとしているときに武器がないというのは避けるべき事態だろう。
高周波を起こす機能を使って斬れ味を高めていれば、剣など関係なく兵士まで斬り捨てることができただろうが……今回に限ってそんなつもりはない。
こんな扱いを受けているというのに、感謝しているのだ。楽しそうなこの世界に来れたことが嬉しくて、どこかおかしくなってしまっているのだ。そんなわけで、エドアルドに目の前の女騎士を殺す気は無かった。
「ただ……腕くらいはもらっていこうか」
相当な速度で放った斬撃を止めた反動を利用して、敵を巻くようにスピンしながら後ろへ回る。死角へ回ったところで軽く上に飛び、振り向き始めた女騎士の姿を空《くう》から見下ろして――高周波ブレードのスイッチを入れた瞬間に右上腕部分へ筋の方向へ合わせて差し込む。
手応えはない。何かしらの金属で作られたのだろう防具すら難なく貫通し、肉を潜って現れた切っ先は真っ赤な血を滴らせている。
ガラァンと、騎士の持っていた剣が落ち、そこでエドアルドもブレードを抜いてスイッチを切ると着地した。即座に腕をふるってブレードに付いた血を振り落とす。それから鞘にしまうと、一つ息をついて――
「それくらいの怪我なら、魔法……で、すぐ治せるんだろ。……安心してくれ、この国の不利になることは言わないから」
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