第一部
1章:新天地の旅
1話 世界を跨ぐ梯子
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ェルクセルの戦争孤児兵士部隊員だった。
〈こちら一CO〇〇。経過報告をお願いします〉
と、思わず街の様子に見とれてしまったエドアルドの耳に、抑揚のない女性の声が届いた。
自分が従うべき司令官のコードナンバーが混ぜ込まれた通信は、任務の遂行状況を確認するもの。少しボーッとして、任務に関係の無いことを考えてしまっていたエドアルドは、一瞬の反応の遅れを見せながらも答えるべき言葉で応じる。
「無事任務を達成。サブターゲットクリア。これより帰投する」
〈了解。幸運を祈る〉
素早い情報のやり取りで連絡を終え、通信は終了する。
――戻るか。
さすがにこれ以上油を売っているわけにもいかず、エドアルドは即座に跳躍した。
彼の体を頭頂からつま先まで余すところ無く包む黒いスーツは、身に付ける者の身体能力を格段に引き上げてくれる特殊任務用ウェアだ。たったの一飛びで六十階をゆうに超えるビルのてっぺんに辿り着いたところからも、その服の性能の高さがわかるだろう。
更にレーダーに反応しないステルス機能を備え、体温を漏らさない設計によってサーモグラフィカメラにも反応することはないため、隠密性も充分に高い。加えて炭素分子による自動修復機能が備わっていることで、長時間の激しい戦闘にも耐えうる性能を持っている。
裏で戦うエドアルドのような部隊員にとっては、自分の命を預けるのにこれ以上の装備は無いだろう。
地上から数百メートルにも達するビルの頂上で、エドアルドはもう一度そのスーツの力を使う。足をカエルのように曲げ、スーツの全身に走るエネルギーの導線に光が通ったところで、その溜めに溜めた力を開放し、彼は弾丸のように飛び出した。
幾度か建物の屋根を経由しながら、決して速度は落とすことなく海まで突き進む。
――取り敢えずここさえ越えれば……。
敵国の領土からは離れたことで、ひとまずは危険も大きく減ったはずだ。もし捕まってしまえば、ナノマシンによる尋問から逃れるすべはなく、全ての情報を抜き取られた上で捨てられることになる。
その点海に出てしまえば、そうそう捕まるようなことはないだろう。いいところ軽装備の船が徘徊しているくらいで、まったく障害にはなりえない。
そんなわけでここからは更に速度を上げ、エドアルドは滑るように海面を駆ける。
無事に暗殺を終え、目撃者も全て殺した。何一つとして憂いはなく、ここまで作戦は完璧に進んでいる。もうあと少しも走れば自国の領海に辿り着き、しばしの休息が与えられることだろう。最高の結果を期待するため兵士のアフターケアは万全であり、次の任務までは自由に過ごすことができるはず。
そんな無駄な思考が……大きな油断を生んだ。ま
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