第50話『VS.鬼』
[7/7]
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
る。
だがその痛みを嘆くことはできず、代わりに冷たさに苛まれた。
ヒョウに近づいてからものの数秒、見事に返り討ちだ。
作戦だけは良かったかも知れないが、戦闘において晴登は如何せん素人である。強さの最上位に君臨する鬼族相手では、足元にも及ばないのだ。
「…っ!?」
ふと、視界が回転して地上が見えた。
・・・今、晴登の身体は空中に在る。
どうやら、ヒョウに空中へ放り投げられたようだ。
「これで終わりだよ」
体勢がままならないが、目だけはヒョウを捉えた。
同時に、彼の手元に生成されている、大きな氷柱も見えた。直径10cmはあるだろう。
彼の最初の一手、晴登の横腹を穿ったアレである。
──空中にいる以上、避けることは不可能。
将棋でいえば“王手”、チェスなら“チェックメイト”の状態。"絶体絶命"という言葉が、脳裏をよぎった。
「逝け」
短い言葉と共に、氷柱は射出された。悔しいが、完璧に晴登の身体貫通コースである。
魔術を使って防ぐ、ということはしなかった。できたとは思うが、たぶん心のどこかで諦めていたのだろう。
氷柱が目前に迫る。
不思議とこの時、冷静でいられた。
余りに刹那の出来事だからなのか、死を受け入れていたのか・・・。
何にせよ、防ぐ手段はない。どう望もうが、未来は変わらないのだ。
「ごめん、ユヅキ……」
不思議とその言葉だけは素直に出てきてくれた。
こんな時まで悠長でいられるなんて、呆れて物も言えない。
あぁ、もう一度瞬きをすれば、その間に死ぬのではないか。いや、視界が霞んで、もう遠近感なんて掴めやしない。
「ハルト!」
ミライの声が聞こえた。
しかし今更、彼が何かできる訳ではないだろう。
自分の死に様を晒すなんてしたくないけど、彼にならいいかもしれない。
すいません、ミライさん。
俺も、この街を守りたかったです・・・
「ハルトっ!!」
「…!!」
その時、身体が大きく揺れた。そして、視界から氷柱の存在が消える。
何が…?
その問いの答えは、考えるよりも簡単に解った。
「嘘だろ、ミライさん…!!」
眼前、氷柱に身体を射抜かれ、鮮血と共に力なく地面に落ちていくミライの姿があった。
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ