第一章 天下統一編
第十二話 覚悟
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でも失敗すれば腹を切れ」
秀吉の目は真剣だった。俺は表情を凍りつかせ身体を膠着させた。俺の聞き間違いだろうか。秀吉は「腹を切れ」と言ったような気がする。
「関白殿下、今何と仰られたのでしょうか?」
俺はもう一度聞き直した。俺の声は無自覚に震えていた。
「韮山城を落とすことと北条氏規を拘束することのいずれか一方でも失敗すれば腹を切れ」
秀吉は俺を凝視したまま一言一句同じ内容を言った。俺は戸惑ってしまった。「失敗したら腹を切れ」とても甥にかける言葉じゃない。俺は泣きそうになるのを堪え心の中で葛藤した。ここは江川氏の知行安堵状を欲しいと提案を切り替えるべきだろうか。
「伊豆国の知行安堵状を前借するほど韮山城を落とすことに自信があるのだろう。ならば城を落とし北条氏規を生け捕りにし応えてみせよ。お前は一国を与えることを軽く考えているのではあるまいな」
俺が思案していると、秀吉は峻厳な態度で俺のことを睨んでいた。
「この話なかったことにできるのでしょうか?」
「いいだろう。一度限りじゃぞ」
「変わりと言っては何ですが。伊豆国の土豪、江川英吉、の知行を安堵するとお約束願えませんでしょうか?」
「その者はお前が調略しようという相手か?」
秀吉は俺に詰問した。
「その通りです。北条氏規の重臣にございます」
「駄目だ。既に家康の手がついている。知行安堵状を出しても、江川は儂に感謝せず家康に感謝するに違いない」
秀吉の目は据わっていた。俺の頼みは聞き届けるつもりはないようだ。どちらの知行安堵状も貰えないとなると俺の目論見は完全に水泡に帰することになる。江川砦を落とし江川英吉を下しても俺に協力するか分からない。もし、協力を得られないなら江川英吉を殺す以外に道が無くなる。生かして置いても将来に禍根を残すことになる。
「卯之助、如何する?」
秀吉は俺を凝視したまま冷たい表情で俺に声をかけた。
秀吉は完全に切れている?
ここは引き下がるしかない。流石にやばい。やばすぎる。命と知行安堵状を比べることはできない。
死んだらお終いだ。秀吉の雰囲気は俺が失敗したら本気で殺す気でいる。顔は本気だ。本当に殺される。
切腹なんて無理だ。そんな荒行は俺にはできない。
「卯之助、どうする? ワシの出した条件を飲むか?」
秀吉は視線を落とし悩む俺に声をかけてきた。その声は冷たい。
江川英吉を調略できれば韮山城が落ちるはず。江川家は北条氏規の重臣だ。徳川家康が粘り強く北条氏規に降伏交渉を行なったというが、その仲立ちを行なったのは江川英吉と江川英長だと思っている。二人は北条家臣と徳川家臣に分かれることで絶妙の立ち位置を得ることが出来た。徳川家の普通の家臣が城に籠もる北条氏規と交渉
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