第一章 天下統一編
第十二話 覚悟
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「近江中納言様の下に駿河前左大将様をつけることで手柄を近江中納言様のものとしようということでしょうか?」
秀吉は俺に視線を合わせ口角を上げる。
「その通りだ。今回の戦は秀次の箔を付ける良い機会だ」
秀吉は一旦言葉を切ると俺のことを凝視し口を開いた。
「お前はよう知恵が回る。卯之助、この場はワシとお前だけじゃ。家康を敬称で呼ぶ必要などない。いいな?」
秀吉が俺を睨むと俺は直ぐに「わかりました」と肯定の返事をした。
「卯之助、儂が織田信雄を韮山城攻めの総大将に選んだ理由が分かるか?」
俺にその理由が分かるわけがないだろ。だが、そう答えることができる空気じゃない。秀吉は俺の答えに期待している様子だった。理由を考えるしかない。俺は織田信雄の経歴を思い出し頭の中で整理した。
「織田信雄が失態をさらすことをお望みでしょうか?」
秀吉は子気味よく笑いだした。正解のようだ。
「幾ら織田信雄が戦下手とはいえ四万の大軍で四千弱の兵が篭る城を落とせないなどあるでしょうか? 十倍の兵があるなら包囲し敵の退路を一つだけ空け、敵に圧力をかければ敵に綻びが出る可能性が高いと思います」
俺は孫子の兵法を引き合いに出して秀吉に意見した。秀吉は俺の意見に笑みを浮かべていた。
「お前は織田信雄とそう付き合いはない。分からんでも仕方ない。あいつのことだ。楽に城を落とせると息巻いて北条氏規に手ひどくやられるだろう」
秀吉は織田信雄の実力を過小評価しすぎではないか。でも、伊賀攻めでも大軍率いてぼろ負けして無能さを露呈している。韮山城攻めでも織田信雄は緒戦で被害を受け、その後は包囲作戦に切り替えている。北条氏規がいずれ降伏すると考えたのか、徳川家康に色々と囁かれたのか分からない。その後、織田信雄は総大将を罷免された。
「織田信雄は相手が寡兵だと相手を侮る性格ということでしょうか?」
「少し違うな。織田信雄は何事も決め付ける性格なのだ。相手が寡兵なら楽に潰せるとな。人の意見など聞かない奴だ。思惑が当たれば良いが外れると悪い方へ悪い方へ転がり落ちる。韮山城攻めで織田信雄は失態をさらしそうだと思っている」
「北条氏規は北条家中では冷静な目を持っているように思います。幼少の頃は今川家の人質と生活し、人質にも関わらず今川義元の養嗣子にまで遇された人物です。一廉の人物と見て間違いないと思います。織田信雄が関白殿下の想像通りの人物ならば失態を晒すことになると思います」
「よく調べているようだな。織田信雄は北条氏規のことをそう評価していないだろう。どうせ田舎大名の一門程度としか思っておらんだろう。以前、北条氏規は北条家の使者として儂の元を訪ねてきた。当時、北条氏規は無位無官であった。儂は北条氏規を公卿達が居並ぶ
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