151部分:幕が開きてその五
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幕が開きてその五
ハンニバル、大陸でその名を知らぬ者はいなかった。若い頃よりトラキアの騎士として戦場を駆け巡り数多の武勲を積み重ねてきた。その中で騎士としての武芸、将としての軍略、軍人としての高潔な人柄、それ等で知られるようになった。トラキア随一の将である。
「御呼びに預かり参上致しました」
落ち着いた声である。王はそれに鷹揚に頷いた。
「ハンニバルよ、今日来てもらったのは他でもない。御前の力が必要になった」
「ミーズに侵攻してきたシアルフィ軍を討つのですな」
「そうだ」
「陛下、御言葉ですがシアルフィと戦うのは・・・・・・。彼等は講和を申し出ておりますしここはそれに同意し大陸の災厄の中心である帝国こそ討つべきです」
王はその言葉に表情を暗くした。そして重く低い声で言った。
「・・・・・・ハンニバル、貴様わしに逆らうつもりか?」
「なっ・・・・・・!」
ハンニバルは絶句した。そして語句を荒わげ反論した。
「王よ、何を言われます。それがしは若い頃より陛下に剣を捧げトラキアの為に戦ってきた身、逆らうわけがありませぬ!」
「・・・・・・そうか。ならばその誓いを見せてもらおう」
王は顔を意識的にハンニバルからそらした。
「貴様には養子が二人いたな。忠誠の誓いとしてそのうちの一人をわしに差し出せ」
「!」
これにはハンニバルのみならず部屋にいる騎士達も絶句した。だが王はそれに一切構わなかった。
「二人共このトラキアに来ていたな。連れて来い」
暫くして二人の少年が連れて来られた。二人は部屋に入ると王に対し敬礼した。
「コープル、シャルロー・・・・・・」
ハンニバルは二人の子供達の名を呼んだ。二人は父の方を見るとあどけない顔で微笑んだ。
コープルと呼ばれた少年は金の髪に青い瞳を持っていた。白い法衣とズボンの上に青いマントを羽織っている。
シャルローは青い髪と瞳をしている。黒い法衣とズボンを身に着け赤いマントを羽織っている。
「どちらかを差し出せ。人質としてわしがルテキアのディスラーに預ける」
「・・・・・・・・・」
ハンニバルの顔が苦悶で覆われる。場が重苦しい雰囲気に包まれる。その時だった。
コープルが無言でスッと前に出た。そしてトラバント王の前で膝を折った。
これには王もいささか面食らったが顔には出さなかった。そしてコープルをディスラーの下へ連れて行くように命じた。
「シャルローといったな。貴様はカパドキアに戻ってよい」
シャルローは王に黙って頭を垂れた。コープルが彼のほうを一瞬であるが振り向いた。そのとき二人は片目を瞑り合って何かしらの合図をしたがそれには誰も気付かなかった。
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