第百二十四話
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傷だけだが。
「ねぇ、優しい見栄っ張りさん。最期に……もう一つだけ、お願いしていいかな? ついでにそれを、見なかったことにして欲しいな……」
「ああ」
もちろん断る理由もなく、彼女のお願いを聞きながら、愛刀を鞘にしまったユウキの隣に立った。すると先程倒れた時のように、ユウキがこちらにしなだれかかってきた。また力を失ってしまったかと慌てたが、俺の背中に回された手は、震えながらもしっかりと俺の身体を抱き留めていた。
「死にたくない……」
――絞るような小さい声。まるで聞き間違いかのような声だったが、俺の胸元から聞こえてくる少女の声は、泣きじゃくる音に混じって徐々に大きくなっていく。
「死にたくない……死にたくない……死にたくない死にたくない死にたくない! ボクだって、まだここにいたいよ! ここで……みんなと生きてたいよぉ……」
ずっと隠してきた、彼女の偽ることのない正直な気持ち。どこか超然的な雰囲気を漂わせていて、自らに待つ最期に常人には計り知れない覚悟をしてきた少女の、最初で最期の本当の気持ち――今は、その本音を、誰も聞いてはいない。
「……ごめん。ありがと、忘れて……」
そうして俺から離れていったユウキに、もうどこにも涙はなかった。いつも通りに朗らかな笑顔だったが、今はどこか脆い。
「ユウキ!」
するとアスナもまた、この場所にたどり着いた。悲痛な表情を隠してユウキに語りかけるアスナに、ユウキもまた笑顔で返すと、ゆっくりと振り向いた。
そこにあるのは、俺たちが今まで寄りかかっていた大木。その大木に向かって、ユウキは先程と同じ構えで鞘から愛刀を解き放った。
「やあっ!」
そして炸裂するOSS《マザーズ・ロザリオ》――すると大木に魔法陣が浮かび上がり、アスナの手に魔法陣から浮かび上がった巻物が渡される。OSSを習得した者が一つのみ作り出すことが出来る、OSSを受け継がせることの出来る巻物――あれもまた、ユウキがこの世界にいた証なのだろう。
「私に……くれるの……?」
「うん……やっぱり、アスナしかいないかな、っ、て……」
「ユウキ!」
そしてOSS《マザーズ・ロザリオ》で全ての力を使い切ったかのように、ユウキはまたもや倒れ伏した。アスナがその身体を抱き留めたものの――もう、ユウキに生きる力はないのだと、直感的に理解できた。
「約束するよ……私がこの世界から旅立つ時が来ても、この技は誰かに託す……あなたの技は、ずっと生き続ける……から……だから……」
「お願いね……あれ、変だな……痛くも苦しくもないのに、力が入らない……でも――」
その先を、アスナが言葉にすることは出来なかった。我慢していた大粒の涙が、ユウキにポタポタと流れ
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