レッドホワイト・バレンタイン
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のを作りたかったのだけど。
でも、致し方ない。
想いの丈に、変わりは無い。
エルシャは、運ばれてきたジュースをずるずると何の色気もなく啜るソレイユの姿に、くすっ、と笑う。
「……どうした?」
「いえ。可愛いなぁ、と」
「……うっせー」
そっぽを向いてしまう彼。ああ、怒らせたかな。でも知っている。彼は、冗談で、怒っているようなふりをしているだけだ、と。
だから。
「先輩――」
言う。
「貰ってください」
カバンから取り出した、包装紙に包まれた『ソレ』を、同時に渡す。
彼は訝しげにそれを受け取ると、疑問の表情で箱を見た。
「……何だ、これ」
「チョコレートです」
固まった。ソレイユの動きが、完全に停止した。
「……えっ?」
呆けたような表情の彼に。
とどめを刺す。
「先輩――好きです。私とお付き合いしてください」
***
さて。状況を整理しようか。
俺は一介の日本の無職。バレンタインの敗者である。ある日トラックに轢かれて憑依転生を果たし、異世界の魔法学校生徒、ソレイユ・グノーシス少年と融合した。産廃も良い所な彼のステータスに翻弄されつつ一年近くを過ごし、まさかの異世界にもお菓子会社の陰謀たる『聖アンリエッタ祭』があることを知り絶望。するとなぜか後輩の女の子にデートに誘われ、半日一緒に過ごし、休憩がてら喫茶店に入ってオレンジジュースらしきなにかを呑んでいたら。
告白された。何を? 愛を。
……大事な事なのでもう一回言う。告白されたのである。
……は?
「……え?」
思わず間抜けな声が口をついて出た。後輩――エルシャは、出会った頃にはまるで見せてくれなかった、しかし最近はよく見せてくれる、優しい微笑を浮かべたまま。可愛らしく、美しい彼女。邪神の特徴を受け継いでいるというただそれだけで迫害されてきた彼女。強い娘。俺なんかよりも、ずっと、優秀な子。
それが何で――俺みたいな前世も現世も産業廃棄物な男が、好き?
「……どうした、エルシャ……なんか悪いモノでも食べたのか?」
続けて俺の口からこぼれたのは、そんな言葉。とらえようによっては大層失礼だが、でも、そんな言葉しか出なかった。
でも彼女は苦笑して、
「いいえ。私は、いたって正気ですよ?」
答える。なら――
「じゃぁ、何か罰ゲームでも課せられてるのか。いじめられてるのか? なら俺よわっちいけど、全力でそいつら叩き潰すぞ?」
「それも、違います」
あれれー? おっかしいぞぉ〜? などと、体は子供頭脳は大人な名探偵の名言を脳内で再生しながら、再度フリーズ。
そんな俺を溶かすように。
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