目出度い鯛でお祝いを・1
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
昼下がりの鎮守府・武道場。柔らかな陽射しの差し込む場内ではあったが、室内の空気は張り詰めている。
「行きます!」
「来い」
向き合うのは大小2つの人影。両者は互いに得物であるナイフを手にしていた。勿論、殺し合いではなく訓練であるのだが、その手に握られているのは紛れもなく真剣ーー模造品ではない切れるナイフだ。本物で対峙する緊張感が無いと訓練にならないという相手からの申し出で使っているが、何も訓練で……と大きい方の影である提督は呆れていた。そんな気の弛みを感じ取ったか、向かい合っていた小さい影が打ち込んで来た。キン!という甲高い音が場内に響く。体格に似合った素早い踏み込みからの刺突。悪くはない、悪くはないが得物の特性から考えるとそれは悪手だ。
ナイフというのは刀や脇差しよりも刃渡りが短く、どうしても破壊力や間合いで劣ってしまう。その為、映画や小説等では一撃必殺を狙う戦い方か、トリッキーな動きで相手を惑わす動きが多い。提督が相対している相手もまた、そういう動きをしている。ナイフを水平に構えてみたり、右や左に持ち替えたりという動きだ。しかし、そんな動きに惑わされる提督ではない……が、これは相手を鍛える為の訓練。口出しはせず、打ち込んで来るのを待ち構える。その後も何度か刃を合わせ、十分にナイフの存在を印象付ける。
『……そろそろか』
俺は頃合いだと判断して、とある『罠』を張った。仕掛けるのは次に刃を合わせたその瞬間だ。大きくバックステップした相手が飛び込んで俺のナイフと打ち合った。その瞬間、俺がナイフを取り落とした。相手はそれを拾おうと屈むーー掛かった。その飛び込んでがら空きになった横っ腹に、すかさずボディーブローを叩き込んだ。
「痛っ……ぐうぅ」
「北米のインディアンに伝わる奥義でな。相手に得物を印象付けた後にわざと落として、相手の動きをコントロールするんだ」
取り回しがしやすい、というのはそれだけ戦略の幅が広いという事でもある。その引き出しの多さもナイフ使いの強味である。まぁ、俺は講釈垂れるよりも実地で教えた方が早いからな。
「さ、次だ。行くぞ初霜」
「はいっ!」
相手をしていたのは初春型4番艦・初霜。改二となって対空と運が強化された駆逐艦娘である。本人はそれだけで飽き足らず、近接戦闘も強くなりたいと俺に指南を求めてきた。そういう青臭い努力家は、俺も嫌いじゃない。
それから一時間程、初霜の訓練に付き合った。身体中、切り傷やら青アザだらけで何とも痛々しい。やった本人の台詞じゃねぇ、と言われればそれまでだが。
「うし、今日はこのくらいにしとくか。お前は大淀に言ってバケツ用意して貰って、風呂入れ」
ここでいう風呂は入浴ではなく、入渠の事だ……って、説明せ
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ