テーマ短編
ヴァレンタイン番外編:貴方に渡したい物
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2月4日
「んむふぅ……」
麻野美幸は珍しく、ベッドの上にばふんと音を立てて寝転がりながら、なんとも奇妙な唸り声を上げていた。原因は10日後に発生するとあるイベントのためである。
バレンタインデー。元はローマ帝国において、結婚を禁止された兵士たちを憐れんだとある聖職者が隠れて婚式を行い、自らの信念を貫いた果てに皇帝によって処刑されたことに由来する、西洋における恋人たちの日であるこの日は、日本では少し特殊な形で発展を遂げた。
なんでも、元々は製菓メーカーが考案しただとかで、女性が想い人にチョコレートを贈る日だとされているのだ。
まぁ、今では既に女性男性のくくりなく、好き嫌いの区別なく、日ごろ世話になっている人々に、感謝の気持ちをチョコ(あるいは菓子)という形にして送る、そんな風週になっているのだが……しかし、この少女、麻野美幸にとって、そんな最近のバレンタインの風習はどうでもよい。
重要なのは「想い人にチョコレートを贈る」この一点のみである。
「何作ろう……」」
真上に広げたレシピ本を眺めながら、美幸は考え始めて煮詰まった顔をする。彼女が自分の想い人……桐ケ谷涼人にチョコレートを贈るのは、これが初めてではない。小学生の頃にも何回か手作り(といっても精々簡単なチョコレートケーキ程度のものだが)の物を送ったことはあるし、実を言うと去年も送った。ただ去年はリハビリ中だったのもあって体力が足りずちゃんとした物を作れなかったし、小学生の頃の話を今更自慢げに実績として語れるほど、自分も子供ではない。それに少しは、あの頃よりも成長したと思ってほしいという見栄もある。
「……持ち運び、かぁ」
先ず前提になる条件として、料理として更に乗せて出す者にするか、あるいは持ち運べて直接手渡せる物にするべきかという問題がある。幸い、今年のバレンタインデーは土曜なので、彼を呼び出すことは出来ると思う。しかしおそらく彼にバレンタインデーのプレゼントを渡したい女子は……結構いる。なので、色々考えるとやはり持ち運べる方が良い。
そうなると自動的に、持ち運びによって形が崩れてしまったりするものはあまり望ましくはない。まぁ、彼は多分「食えりゃ同じだろ」と言って普通に食べるのだろうけど、見た目も料理を構成する大事な要素の一つだ。手を抜きたくはない。
「じゃあ、ケーキは無しで……」
フォンダン・ショコラ、ザッハトルテやオペラも彼は好きなのだろうけど、今回は見送りだ。また別の機会に作ってあげよう……とりあえず、誕生日辺りを目標に。
「普通のチョコレートか、チョコレート味の何かにした方が良いかな」
となると整形しなおしたチョコか、あるいはガナッシュ、ブラウニー、変わり種でチョコ餅などもあるか……?悶々と考えながら、ぱらぱらとそれらのレシピをめくる。
「
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