142部分:複雑なる正義その七
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複雑なる正義その七
(・・・・・・・・・)
顔こそ上げなかったがセリスの表情は暗くなった。だがそれに気付いた者はレヴィン以外にはいなかった。
「ミーズ城が陥落したか・・・・・・」
アルテナはミーズ城の南で敗残兵を集めながら力無く言った。
「殿下、如何致しましょう。ミーズ城が陥落した今我等には・・・・・・」
将校の一人が述べる。やはりその言葉には力が無い。
「止むを得まい。竜騎士団はトラキアまで、他の部隊はハンニバル将軍が守るカパドキア城まで撤退する」
「はっ」
アルテナの言葉通りトラキア軍は南へ退きはじめた。まずは南西のカパドキアに撤退する騎士団や歩兵部隊を竜騎士団が護衛している。
夕闇が暗くなり辺りを紅から濃い紫に変えていく。アルテナはその中で軍の最後尾で退却する軍の殿軍を務めていた。
ミーズ城の方を見る。既に夜の闇の中に消え城は見えなくなっている。だが城はそこにある。
(陥ちたか、あの堅城が・・・・・・)
美しく整った自身の名でもあるアカネイアの知と戦の女神を思わせる美貌を暗く悲しい陰が覆う。
(私は・・・・・・トラキアはやはり間違っているのだろうか・・・・・・)
トラキア城の方を見る。そこには父と兄がいる。
(父上・・・・・・兄上・・・・・・)
涙は流さない。しかし深く強い哀しみが彼女の心を打つ。
両手で元服の時に父から授かり今まで使ってきた槍を握り締める。刃の後の部分が横に拡がり両脇に半月の刃がある。そしてその間に紅く大きいルーン文字が刻まれた宝玉が埋め込まれている。
父から授けられた時古くからトラキア軍に伝わる名槍だと教えられた。だが名は無いと言われている。アルテナはそれでもこの槍が好きだった。
何故か持っているだけで懐かしく愛しい気持ちになるからだった。
その手に握られている槍は何も言わない。ただ紅く暖かい光を発していた。
解放軍とトラキア軍のマンスター城攻防戦とミーズ城攻防戦という二つの城とフィアナを巡る一連の戦いは物量に優る解放軍の勝利に終わった。参加兵力は解放軍三十万、トラキア軍三万、死傷者はトラキア軍が一万を越えたのに対して解放軍は八百程であった。また解放軍はマンスターとフィアナ救援にすぐさま動き民衆に人気の高いマギ団とラインハルトが合流したことでその人望はさらに高まった。対するトラキア軍は多くの将兵を失っただけでなくレンスター侵攻の足掛かりを失い本国において解放軍と対峙することとなった。そしてレンスター侵攻による非戦闘員に対する攻撃、謀略等で大陸での信用をさらに落とした。双方の明暗をもはっきrと分けた戦いであった。
かってトラキアの南には戦乱の中ユグドラルを貪るニーズヘッグが棲むと言われた。今そのニーズヘッグが歴史という舞台から退場する時が来ようとして
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