第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
18話 軋む軛
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に出来たならば上出来だ。
「ああ、おかげで吹っ切れた。もう、済んだ話だと思っていたんだが…………クハハッ、笑えてくる」
目の前の悪人を殺すのにさえ、散々な自己弁護を並べ立てても消えなかった罪悪感が呆気なく麻痺する。まるで精神の構造が変質していくような感覚を奥歯で噛み殺しながら、しかしそれを受け入れる。
そうだ、始めから悩むことなんてなかった。俺に与えられた行動原理なんて所詮は《守る》だけ。そしてそれを達成せしめる手段を選べるほど高尚な人間ではない。始めから変わることはなかった行動指針だ。
だから、決めたのではないか。敵を殺してでも守ると、既に堕ちるところまで堕ちた俺には手段を選べるほど真っ当な概念など持ち合わせてはいないというのに、こんなことに悩んでいたとは滑稽でならない。
――――いや、そもそもこれも建前に過ぎないか。思い出して見れば、なんと他愛ないことだろう。
グリセルダさんの救出に向かった時も、黄金林檎を狙った笑う棺桶の一団と対峙した時も、俺は一切の躊躇を差し挟むことはなかった。なにしろ、靄の掛かった記憶の中で俺は歓喜していたのだから。この身体さえ紛い物でしかない虚構の空間で、確かな生きる実感を与えてくれたのは《命を賭した戦い》の只中だった。殺意に満たされた斬撃の嵐の中にこそ充足を見出したのだから。
思えば、ヒースクリフにPoHの暗殺を依頼されたあの時から、心の奥底で笑みを浮かべていたのかも知れない。そうでなければ、これまでの俺では死地に向かうような真似はしないだろう。どこかで、理性の軛から解放されようと策謀を巡らせていたとすれば、この巡り合わせも偶然ではなくなってくるだろうか。
………なるほど、我ながら悍ましい限りだ。
………何も乗り越えられていない。何も、好転していない。
「余所見はやめろ。望み通り、本気を見せてやる」
緑と紫の色彩が絡み合う、禍々しい毒剣を逆手に持ち替える。
忌々しく、それでいて怖いくらいに手に馴染む柄を親指で撫で、…………ふと、口元に違和感を覚えて欠損した左手に残る指先でなぞると、奇妙なくらいに吊り上がった口角だと認識する。
感情を顔に表すのが苦手ではあったと記憶しているが、どういうわけだろうか。今の昂りにはしっくり当て嵌まる。悪い気はしないが、そんな自分に嫌気が差す。
「さあ、戦闘開始だ」
――――ああ、吐き気がする………
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