第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
18話 軋む軛
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目を開けていては、歪んだ視界に卒倒しそうになる。吐き気に昏倒しそうになる。
肌で感じるという表現は適切ではないだろうが、内側から漏れ出た澱みのような感情に圧壊されそうで堪らない。
――――だが、《これ》に身を委ねなければ、目の前の誰かを見殺しにすれば、俺はきっと一生後悔する。
仮想の肺から空気を吐き切り、再び満たし、目を開く。
PoHの言葉で姿を得たそれを、最後まで拒絶した一線を、自らの意思で超えるのだ。耐え難い嫌悪感だが、それでも俺は真っ当な人間ではない。ならば、見合った手段にて応じる他なくなる。
左手の人差し指は仕事を終え、床に転がる剣に代わり腰に新たな重みが生じる。
俺に与えられたもう一振りの武器。対峙した敵の研鑽を嘲笑い、惨たらしく殺す為の毒。そんな代物を、間尺に遭わない気の迷いで抜くのだから、我ながら嗤いが込み上げてくる。
「……………ッ!?」
僅かに抜いた刀身に触れ、そのままのストロークで左手から放った投剣をPoHが弾く。
紫と緑のライトエフェクトは中空で遮られ、光芒の残滓を帯びた投剣は石畳に落ちる。冷たい音が反響する直後、重さを余すことなく乗せた右手の剣も受け止められるが、対する敵の顔からは慢心にも似た余裕が失せていた。
「……ようやく、やる気になったじゃないか」
「今まで通り、オモチャだと侮ってさえいれば殺せていたのに………勿体ない………」
《秘蝕剣》スキル投擲補助技、《マリシャスギヴァー》。
厳密には投剣スキルに類するものではなく、ダメージ毒効果を保有する武器の刀身に投擲物を接触させることで《その保有する効果を一時的に転写する》というもの。Modの効果まで反映されるから、掠り傷であっても仕留めるには十分な効力を持つ。引導を渡すには誂え向きとは思ったが、殺すに足る攻撃を見極めるという意味では、確かにPoHには殺気を読む見識眼があるようだ。
「それがお前の切り札か? ハハッ、アタリじゃないか。なるほど、面構えはさっきまでとはまるで別物だ」
刹那、僅かに動くPoHの右脚に意識が向き、半ば無意識に上半身を右に逸らす。
数瞬遅れてPoHが猛烈な速度で踏み込み、凶刃が振るわれる。しかし既に見えていたそれをあしらって距離をとる。秘蝕剣の効力が適用されている間は物理的な威力に頼れない。ひりついた空気の中に留まるのも吝かでもないが、装備の性能から鑑みればSTR値算出ダメージの下方修正で打ち負けるのは明白だ。分が無ければ手を引くのも已む無しというもの。
この一合に求めるものは少ない。ほんの少しでも、俺に意識を向けてくれさえすれば意味を為す。こうして足下の子供から気を逸らして、その全てを釘付け
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