第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
18話 軋む軛
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こまでも空しい。空疎で、まるで実感がない。
記憶の片隅でちらつく何かが、声高にPoHの言葉を受けて確信を得つつある。
そして、その動揺をPoHは見逃してはくれなかった。
「だったら、どうして奥の手を使わないんだ?」
「くッ!?」
右手の抵抗も甲斐なく、包丁が振るわれる。
辛うじて手首で食い止められていた刀身はアバターの腕を裂き、肘を抜け、薬指から小指に掛けての部分が削げて宙に消えた。
剥離。部分的な《部位欠損》は、発生個所のSTR判定に著しいマイナス補正を生じさせる状態異常だ。これ以上のクロスレンジに留まるのは悪手にしかならない為に、続く薙ぎ払いをバックステップで回避しつつ、後退して逃げ延びる。
「俺を殺すって息巻いた時はまだいい目をしてた。………けどな。その割にはまるでやる気がない。この間連れてた下っ端どもを皆殺しにしたように、俺にも《切り札》を使えばいい。そんな簡単な話だってのに、肝心のお前は有象無象の雑魚ドロップ品でじゃれつくだけときた。流石にガッカリしちまうねぇ」
「………それはまだ、どうか解らないだろう?」
「ハッ、今更ジョークにもならねえよ。お前が殺意を持てないことくらい見てれば解る。正直、興醒めだ」
得物を降ろし、ゆったりとした足取りでPoHは遠ざかる。
今もなお残る《殺しに対する忌避感》を見抜き、俺の戦意が挫けたと悟っての行為。興味を失したのだろう。俺に至ってはギリギリの防戦と精神の疲弊で摩耗し、ガラ空きの背中にさえ一撃を見舞えない体たらくだ。
先程から床に仰向けの格好で倒れていた幼い少女のアバター――――カラーカーソルからしてプレイヤーで、ハイレベル品の麻痺毒を盛られているようだった――――の傍まで歩み寄ると、ブーツの踵が頸の付け根に乗せられる。
「先客との約束でね。お出ましがあんまり遅いから、そろそろゲームオーバーにしとかないとシラケるだろ?」
「………そいつを、殺すのか」
「ああ、だってこのガキは人質だからな。お前と同じで、いつの間にかつまらなくなっちまったヤツがいたんだが、そっちももう飽きちまった。猿同士の殺し合いもそろそろ幕切れだし、引き際には丁度良いだろ」
話は終わりとばかりに、PoHの《友斬包丁》を振り上げる。
ぎらついた凶刃がゆったりと大上段に掲げられるのを見遣り、目を瞑っては一つ息を吐く。記憶が正しければ、あの子はピニオラと行動を共にしていたと記憶している。要は他人だ、そう割り切れば危険を被ってまで助ける価値はない。ほんの僅かな時間、視界の片隅に紛れ込んでいただけに過ぎない。だが、それは些事だ。どんなに言葉を連ねても、諦め切れない自分がそれらを遮って聞き入れない。
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