その1
[1/3]
[1]次 最後 [2]次話
窓から吹いてきた風が、彩られたスケッチブックを撫でる。
普段は億劫な四階という部室の配置も、暑さが残る九月半ばにおいては非常に過ごしやすかった。
快適な室内に機嫌を良くして色鉛筆を動かす。
やがてさらさらと絵を描き上げると、ほうと一つ息を吐く。
「終わったのか?」
顔をあげると、絵のモデルさんである文化研究部副部長、稲葉姫子がこちらを向いて問いかけていた。
「うん、この通りです。ご協力どうも」
「いつものことだ、気にするな。しかし相変わらずうまいな」
スケッチブックを稲葉さんに見せると、彼女は絵を眺めて感心するよう頷いた。そうはいっても所詮は趣味レベルの話であり、僕より上手な人は沢山いるんだけどね。
それでも褒められればうれしい物だ。
「ふふん、もっと褒めてもいいのよ?」
「調子に乗るな。……む、来たようだな」
廊下に響く足音を聞いた稲葉さんが呟く。
直後、からりと引き戸を開けて、同じ文研部の一人である八重樫太一が入ってきた。
「あれ? 稲葉と北野だけなのか」
「そーみたいです」
八重樫くんにおざなりな返事を返すと、次の絵を描くためにページをめくる。今度はどうしようかなぁ。
部室の真ん中に置かれた長い机に寄り添う六つの椅子の中でもっとも扉と遠い席から、『文研新聞』のネタについて話す二人を見て、ぼんやり考える。
色鉛筆を手持無沙汰にくるくる回していると、扉が大きな音を立てて開いた。
「チィース! 遅れましたぁ! ……って、まだ三人しかそろってないじゃん!」
せっかく階段ダッシュしてきてやったのにー、と不満を口にしたのは、文研部の部長を務める永瀬伊織だ。彼女は奥に設置された古い黒ソファーに休日のおじさんのごとく寝っころがる。
女子高生としてはかなりだらしない様子に、稲葉さんは顔をしかめた。
「伊織、スカートがめくれてスパッツが丸見えだぞ」
「別に良いじゃん」
「俺も北野もいるんだが……」
その言葉に永瀬さんはハッと起き上がり、太ももを隠す。
「そうだった! 太一はともかく、北野んに見られた涎を垂らしながらいやらしい絵を描かれちゃう!」
「せやな」
「いや、伊織は北野をなんだと思って……。え? お、お前、それでいいのか!? 変態のレッテルを張られてるんだぞ!」
僕の肩をがくがく揺さぶる八重樫くんに、僕は右手を天に伸ばし。
「我が生涯に一片の悔いなし……っ!」
「あってくれよ! 何を清々しく変態を肯定してるんだよ!」
もっと自分を大事にしてくれと訴えられた。
その気持ちはありがたいんだけど、こういうのって否定すればするほど悪化すると思うんだよね。女の子に口では勝てないし、さらっと流すくらいが
[1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ