第十五話 作戦発動 そのA
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けど、公子を動かして消耗させて』
ハンドシグナルで追加の指示を出しているブルーノも思いは同じのようだった。頬に冷や汗が伝っている。
試合が始まると、不安感はますます大きくなった。
「どうした!幼年学校の訓練とはその程度か!」
「シュラー!」
戦斧の唸りに体がすくむ。刃と刃が撃ち合う金属音に心臓が飛び出しそうになる。
理性では雄叫びをあげて攻め込むオイゲン公子の勢いが続かないと分かっていても、攻め込まれたシュラーの後退が擬態と分かっていても、思わず声が出てしまうほどに、立ち上がってしまうほどに、俺たちは動揺していた。試合時間が五分を越える頃にはシュラーが俺たちの指示を守って試合を引き延ばしていることも忘れ、早く決着してくれ逆転してくれと本気で願い始めていたほどに。
『えー、ゲロ袋に紙おむつ、電気ショックに棺桶はいかーっすかーっと』
『ばうっばーう』『がうっがーう』
物売りの仮装までして好き放題にふざけ回る悪魔と楽器をめちゃくちゃに掻き鳴らして騒ぐゆかいなしもべたちを怒鳴りつけて追い払う余裕すらない恐怖の時間は終わってから確認すると二分以上も続いた。
「あっ」
「……勝負あったな、寒門の子」
「芝居がうまいのも考えものかも。心臓に悪いよ」
ブルーノが心臓のあたりを手で押さえながら、反対側の手の親指だけを上げるのを見て、俺はようやく平常心を取り戻すことができた。
「それまで!最終戦第一試合、勝者オイゲン・フォン・ツィンマーマン生徒。続けて最終戦第二試合、アレクサンデル・バルトハウザー生徒」
倒れたシュラーに戦斧をつきつけながら肩で息をしているオイゲン公子の姿、そしてこちらも倒れたまま右手の親指だけでうまい芝居だったろうと自慢したシュラーが引き上げてくるころには、うますぎる役者に肘鉄をくらわせ次の役者に出番を合図するとともに演出の変更を指示する余裕も戻っていた。
「最終戦の第一試合、第二試合ってのもなんだかおかしな言い方だな」
「文学者だね」
「そうだな、ひとつ騎士物語でも書いてみるか」
「騎士物語なら、君はろくな死に方をしないね。僕は天を仰いで死ぬ役回りになりそう」
「嫌なことを言うなよ」
一息ついた俺たちがおちゃらけながら──精神状態を回復させるには寝ることの次に効果が高い方法である──見守る前で、アレクとオイゲン公子の試合は予想通り、筋書き通りに展開した。
「お前は本当に平民の子か!!」
序盤の攻防、アレクの怒涛の攻めをかろうじてしのいだオイゲン公子の驚いた声が試合場に響く。
アレクとオイゲン公子は勢いはともかく、動きの早さも手数の多さ、一撃一撃にこめられた力もまるで比べ物にならなかった。アレクは試合開始からいきなり、次の試合のことを考えているのか心配になるほどの骨
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