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真田十勇士
巻ノ七十六 治部の動きその十三

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「内府殿に」
「そうですね」
「豊臣家は」
「はい、もうです」
「天下人ではいられぬ」
「お拾様お一人です」
 今の豊臣家はというのだ、実際にもう誰もいない状況だ。秀頼以外には。
「しかもお拾様はご幼少」
「何時どうなるか」
「わかりません」
 まさにというのだ。
「そうした状況では」
「最早」
「天下を保つことは出来ません」
 だからだというのだ。
「幼子は急にいなくなるものでもありますし」
「若しお拾様に何かあれば」
「終わりです」
 秀頼しかいない今の豊臣家ではというのだ。
「ですから最早です」
「豊臣家は」
「天下人ではいらません」
「だからですね」
「はい、ですから」
 それ故にというのだ。
「ここはです」
「内府殿に従うべきですか」
「その様にすることです」
「わかりました」
 利長は母のその言葉に頷いた。
「ではその様に」
「それでは」
「潔白の証を立ててきます」
「それは私が」
 おまつは微笑んでだ、我が子に告げた。
「行きましょう」
「母上が」
「はい、私が内府殿の下に赴きます」
「人質としてですか」
「前田家の潔白の証です」
 それが為にというのだ。
「内府殿の前に参ります」
「母上ご自身が」
「内府殿なら私が参ればです」
 それだけでというのだ。
「前田家を認めて下さいます」
「そこまですれば」
「そうです、ですから」
「母上ご自身がですか」
「内府殿のところに行きます」
 微笑みさえ浮かべて利長に言うのだった。
「そうしてきますので」
「それでは」
「その用意を」
 こうしてだった、おまつは自ら家康のところに人質として赴きそのうえで家康に前田家の潔白とした。家康もそれでよしとした。こうして五大老のうちの一つが家康に完全についた。
 幸村はその流れを見てだ、家臣達に言った。
「大きく傾いたな」
「内府殿に」
「そうなりましたか」
「このことすぐに父上にお伝えしよう」
 こう言ってだ、上田の昌幸と信之の下に文を書いた。彼もまた動いていた。


巻ノ七十六   完


                         2016・10・7
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