巻ノ七十六 治部の動きその八
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「それがしに二心があると思われるか」
「思うからこそじゃ」
「待て」
遂にだ、輝元が石田を止めた。
「内府殿が話されておる」
「しかし」
「聞くのじゃ」
家康の官位と禄、年齢から言うのだった。
「よいな」
「ですが」
「よい」
こう言ってだ、他の者達も手遅れ石田が徹底的に言って完全に流れを壊してしまってからようやく言えた。彼が動きを止めてから。
そしてだ、家康は言うのだった。
「それがし太閤様に言われました」
「お拾様のことを」
「はい、頼むと手を取られて」
『このこと』については確かに二心がないので家康も疚しいことはなく言えた。何も案ずることもなく穏やかにだ。
「このこと忘れませぬ、ですから」
「お拾様をですな」
「お護り致します」
このことを約束するのだった。
「このこと誓って言いまする」
「わかり申した」
輝元が応えた、この場で首座にあると言っていい彼が。
「ではこれからも」
「及ばずながら天下の為に」
ここでもだ、家康は言わなかった。言葉が約束になり約束を守ることの大事さと破った場合の大きさは律義者であるが故にわかっているからこそ。
「そうさせて頂きますぞ」
「それでは」
輝元も他の者達も頷くしかなかった、こうしてだった。
家康は詰問の場を逃れ流れも確かなものにした、そして己の屋敷に戻りだ。
主な家臣達にだ、笑みを浮かべて言った。
「流れを掴んだ」
「本日のことで」
「逆にですか」
「激しい詰問だったとのことですが」
「それでも」
「思わぬ助け舟が入った」
笑みを浮かべたまま言うのだった。
「それでじゃ」
「この度は、ですか」
「難を逃れられ」
「そのうえで、ですか」
「逆に」
「流れを掴めた、後は手を打っていく」
彼のそれをというのだ。
「徐々にな」
「では、ですな」
本多正信が家康に言ってきた。
「これより」
「わしは大坂が欲しい」
この考えをだ、家康は話した。
「ここをな」
「さすればですな」
「天下は磐石となる」
それ故にというのだ。
「この地が欲しい」
「そういうことですね」
「その為に全ての手を打つが」
「しかしですな」
「大坂を手に入れるだけじゃ」
あくまでというのだ。
「そしてそのうえでじゃ」
「お拾様は」
「わしは約束は破らぬ」
断じてというのだ。
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