巻ノ七十六 治部の動きその七
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「難しいですな」
「全く以て」
「されど今が時」
秀家の声は強かった。
「内府殿を止める」
「左様、だからこそ」
「ここは攻めるとしよう」
輝元と景勝はこう言ってだ、石田のことが気になってもだ。それで三人は五奉行達も連れてそうしてだった。
内府への詰問をはじめた、近頃のことについて。
しかしだ、それでもだった。
家康はのらりくらりと詰問をかわす、だがそれでもだった。
三人の大老達はその家康を追い詰めていっていた、五人の奉行達は今は何も言わず黙っていた。しかしだった。
月桃の大老達は石田をちらりと見た、そして。
(まだじゃ)
(まだ言うな)
(五奉行は後じゃ)
こう心の中で言うのだった。
(今は我等が攻める)
(そして然るべき時にじゃ)
(加わってもらうぞ)
その時に合図をするつもりだった、そうして家康を攻め続け。
優勢になってきた、ここでさらに言うつもりであったが。
家康が言うとだ、それに切れたのか大老達が最も懸念していたことが起こった。石田が飛び出てきて家康に言った。
「内府殿、それはどういうことか」
(くっ、治部ここでか)
(出たか)
(よりによって)
大老達も他の奉行達も歯噛みした、だが。
石田は家康にだ、強い声で言った。
「そのご本心何か」
「何かとは」
「そうじゃ、貴殿二心があるであろう」
こう言うのだった。
「豊臣家に対して」
(まずい)
他の者達は皆こう思った。
(治部の悪い癖が出た)
(時と場所を弁えぬか)
(まだ言ってはならぬというのに)
(御主の出番はまだ先じゃ)
(ここでは言うべきではなかったのじゃ)」
(それを言うか)
(内府殿の思う壺ぞ)
三人の大老達も他の奉行達も思った、だが石田は止まずだ。
家康の前に出て言っていく、十九万石の三十代後半の者が二百五十万石の還暦を越えた者に対してだ。
家康は石田の言葉をかわしつつ返す、この勝負は。
(いかん)
(治部も攻めておるが)
(格が違う)
(相手は内府殿ぞ)
(百戦錬磨の老獪さがある)
(その老獪さには勝てぬ)
(治部一人では)
到底というのだ、石田は攻め切ったが。
その後でだ、家康は彼が言うまでにだった。周りを見回した。そして場が自分ではなく石田に対して閉口しているのを見て言った。
「お歴々、どう思われるか」
「どう思われるかとは」
「それは」
「治部殿でござる」
その石田のことを問うのだった。
「それがしにこの様なことを言われるが」
「それはその」
「つまりは」
「言葉が過ぎますな、いやそれはいいとしまして」
話の流れが自分に傾いていることを確認しながら言うのだった。
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