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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 40
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高く掲げ、想像もしてなかった内容を答えた。
 「あれは、イオーネさんが自分の手のひらを切ったの! イオーネさんが家に来た時、私が、私なんか誘拐したって何の役にも立たないよって言ったから! じゃあ、私の価値を証明してあげるって。私が傷付けられたら皆がどんな顔をするのか教えてあげるって言って、それであの時……だから!」
 「アルフィン!!」
 「イオーネさんは悪くないの!」
 (……イオーネはアルフィンを傷付けてない? あれは、イオーネの血?)
 「何をボサッとしてるの! 早くアルフィンを連れて行きなさい、ブルーローズ! 邪魔よ! そんなに仔猫を殺されたいの!?」
 もがくイオーネ。動けないハウィス。動かない騎士達。動かない王子。動かない……アーレスト。
 アルフィンが傷付けられたと憤るミートリッテに対し、不思議そうに小首を傾げた「聖職者」。
 (あの人は、私の後ろに居た。夜目が利くあの人にはちゃんと見えてた筈だ。イオーネの刃が誰を傷付けたのか。誰が、血を流していたのか)
 「……おにいさん」
 ハウィス達を見ながら怪盗を抱き込んでいる騎士に話し掛けると、彼は抵抗を止めたミートリッテに合わせて少しだけ腕の力を弛めた。
 「もうすぐ成人を迎える君にそう呼ばれるのは、なんとも複雑な気分だよ。離せとか言うのは無しだぞ」
 「アルフィンの右手首。見えますか」
 「……ああ。リアメルティ伯爵が盾になってて、少ししか見えないが」
 「怪我をしてるように見えますか?変に汚れてたり、何かが巻き付いてるとか」
 「汚れとやらが流血跡を示してるなら……無いな。傷は、暗くてよく見えない。服と靴以外は着用してないと思う」
 「そう、ですか」
 切った直後に筋を成して滴り落ちる量の出血だ。放置した場合は腕も服も酷く汚れ、治療した場合は手首に何かが巻き付いている筈。
 どちらでもないとすれば、それは。
 「おにいさん……」
 右肘を曲げ、指先でベルヘンス卿の腕にそっと触れる。
 肩で振り向いて真顔を傾ける相手に、騎士は疑わし気な半眼を返した。
 「……嫌な予感しかしないんだが、一応尋いておこう。なんだ?」
 
 「貴方の秘密を知っている。」

 一瞬。
 青年の顔が盛大に引き攣った。

 「…………………………代表的且つ、古典的な脅し文句だな……。で? どんな秘密?」
 「貴方達のご主人様に付けられた二つ名が、忠犬の皮を被った幼女偏愛症重篤患者。略して『むっつり変態』」
 「ど・お・し・て! 下らない口喧嘩を一番に思い出すのかな君は!? てか、聴こえてたのか、あれ!」
 「私の耳元で騒いでたのに、聴こえてないと思うほうがおかしいです。で、もしもアルフィンがハウィスを止めてる間に彼が来ちゃったら、今度の二つ名はどんな物になるので
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