第三十七話 眠れない夜を抱いて
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繰り返しの再生だと思っていた。だから、人生を無為に過ごしても次の人生で取り返せばいいと、そう思っていた。
だが、ここにきて思った。完全に損をしたな、と。だからこれからは俺は悔いのない選択を、し続けたいと思う。おっと、話がそれちまったな。
明日、すべてが決まる。
少なくとも史上最大の激戦となる。これまで生き残ってきた艦娘たちのうち、何人が生きて帰れるのだろう。いや、それすらもおぼつかないのかもしれない。
横須賀、沖ノ島からはミッドウェー本島攻略艦隊が、そしてここマリアナ諸島からはハワイに向けて陽動攻略部隊が出撃する。まさに総決算、総力戦だ。艦娘たちのな。
艦娘――。なんと不思議な運命に翻弄される人間だろう。人間でありながら前世の大日本帝国海軍の戦闘艦艇の生まれ変わりであり、その理念に今も支配されている。アイツらを動かしているのは何なんだ?誇りか?それとも責任感か?何があいつらを動かす?なぜこのヤマトをそこまで守ろうとする?
俺は思うことがある。ヤマトの守りは本来であれば俺たち軍人がなすべきことだ。それが深海棲艦に歯が立たないからという理由で艦娘に任せきりにしてしまい、あいつらを駒のごとく使い、自分たちは後方で指令だけ与えている。かくいう俺もそうだ。それはいいのか?そういう人間に、俺に、あいつらに『戦え』と指令する資格はあるのか?
以前葵の奴が言ったことがある。日露戦争時代の大日本帝国海軍は総旗艦自らが先頭に立ち、敵の砲火を浴びつつ奮戦したのだと。そしてその将帥は常に艦橋で敵の砲弾にさらされながら微動だにしなかったのだと。
残念ながら俺にはそうできるだけの勇気も胆力もない。だが、このまま後方で座してみていてもいいのかという感情もある。
情けないものだ。冷徹であれば、こんな思いをしなくてもいいのだが。
俺がほうっと息を吐いたとき、遠慮がちなドアのノックの音がした。俺は後ろを振り向いた。
一人の艦娘が後ろ手にドアを閉めて立っていた。その艦娘は俺がまだ起きている様子を見て一瞬目を見開いた。
「まだ・・・起きていたの?」
俺はうなずいた。そして思った。今からどのような結果になろうと、このやり取りは記録しておきたいと。思い出が色あせることがないようにと。
「起きていたさ。」
俺は声を出した。
「とても眠れるような心境じゃないからな。お前こそ、こんな時刻に起きていては明日の出撃に差し支えるぞ。・・・・瑞鶴。」
正面から俺をひたっと見つめていたのは、瑞鶴の奴だった。こんな夜だというのに寝巻ではなく、普段の弓道衣装を着ている。いや、改二になって、改装前の弓道衣装と変わらないかもしれないが、俺には瑞鶴の奴の放っているオーラが段違いになっているのがよく分かった。これが熟練と言うやつなのだ
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