第三十七話 眠れない夜を抱いて
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。今までこんなことなかったのに。」
俺は声もなく艦娘を見つめていた。あの負けん気の強い、いつも一航戦を意識しているこいつがこんな言葉を吐くなんて。
「私怖い。明日皆がどうなるのか。私がどうなるのか。皆ケガをしないか、私がしくじらないか、うまく作戦が行くのか・・・・そして・・・・・。」
瑞鶴は震える声で一番感じているだろう恐怖を口にした。
「私は生きて帰れるのかどうか・・・・・。」
俺は次の瞬間ぎゅっと瑞鶴を抱いていた。
「てっ、提督っ!!」
瑞鶴にとって長かったのか短かったのかわからないが、俺は体を離すと、両肩に手を置いて一語一語刻み付けるように話した。
「戦場に行くのはお前で俺じゃない。だから、どんな言葉をかけようとお前の不安を俺は払しょくできない。だが・・・・・。」
俺はゆっくりと言葉を継いだ。
「お前は本当に素晴らしい艦娘だ。一航戦にだって引けは取らん。俺は必ずお前が生きて帰ってくると確信している。絶対だ。」
これを読んでいる人がいれば、どうしてそんなことが、と思うかもしれない。だが、俺は知っている。瑞鶴のこれまでの鍛錬のこと、戦闘のこと、日常のちょっとしたしぐさやらなんやら全部ひっくるめてこいつのことを良く知っている。だからいえる。何度でも言える。こいつは明日死なない。死ぬわけはない。必ず生きて帰ってくる玉だって。
「提督・・・・。」
瑞鶴がどう思っていたかそれはわからない。というのは一言もなく奴は俺の肩に顔をうずめてそれっきり朝まで黙り込んでしまったからだ。俺は今でもこう思っている。あれは恋愛でも友情でもその他感情と呼べるものでは一切表現できそうになかったものだ。
ただ、一つだけ。あの時瑞鶴は自分の存在をこの俺に刻み付けたかったのだと。明日も知れない運命に翻弄されている自分の生きた証を呉鎮守府提督でありマリアナ諸島泊地司令官である俺という存在を通して残しておきたかったのだと。
そう思うんだ。
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