第三十七話 眠れない夜を抱いて
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ろう。
「わかっているわよ。」
瑞鶴は不意に顔を横に向け、不機嫌な声を出した。
「だったら早く・・・・いや・・・・。」
俺は言葉を途中で飲み込んだ。
「それともここにしばらくいるか?」
「えっ?」
瑞鶴が目を大きくした。
「そこに椅子がある。飲み物は冷蔵庫に入ってる。寒かったらそこに毛布があるぞ。俺は話下手だからな、たいしたもてなしはできん。それでいいのなら――。」
「ありがとう。」
最後まで聞かず、瑞鶴は椅子を引きずってくると、俺の隣に引き寄せて座った。妙な気分だ。二人してこうして椅子に座って夜の海を眺めるというのは。
「私さ。」
窓枠に両手を乗せ、海を眺めながら瑞鶴は唐突に話しかけてきた。
「一番最初のころのこと、思い出してた。何が何だかわからなくてここに来たんだよね。翔鶴姉と二人で。その翔鶴姉だって会うまでは前世の姉妹艦だったなんて全然知らなくて、それまでは他人で・・・・別々に育ってて・・・・。」
そうか、コイツにはちゃんと家がある。実家がある。そして家族がいる。それは翔鶴もみんなも同じことだ。そんな当たり前のことを俺は今更ながら感じていた。
「お前の実家の事、話題に上らなかったな。」
「当り前よ。こうして『瑞鶴』として生きていることを決意した瞬間に・・・・それまでの名前やらなんやらは捨ててしまったもの。」
「だが、家族は別だ。そうだろう?今だって時折会いに行ける時間はある。その時はお前は『瑞鶴』じゃなく、ただの一人の10代の女として家族のもとに帰るんだ。」
「提督の口から『女』って言葉を聞くと、ちょっとやらしい気がするかな。」
瑞鶴は少し笑った。
「悪かったな。」
「ううん。いいの。」
さっと衣擦れの音がかすかにしたかと思うと、俺の左腕に柔らかいものが押し付けられた。
「あ、おい!」
「ね、しばらくこうさせて。肩を貸して。」
瑞鶴が俺の右腕に自分の腕をからませ、顔をもたせ掛けてきた。妙な気分だ。普段ならこんなことをしていたら間違いなくつるし上げられるのだが。とても安らかな気分だ。いつまでもこうしていたいと思う。鳳翔が聞いたら怒るかもしれないがな。いや、あいつもこの光景を見たとしても微笑んでそっとドアを閉めて――。
「提督。」
横合いから声が聞こえた。
「なんだ?」
一つかすかに息を吸い込む音が聞こえて、
「運命って、信じる?」
「急になんだ?俺は信じるか否かと言われれば、あると信じる。この世は必然だけで成立するもんじゃないからな。」
「だよね。でも、ね。」
瑞鶴はぎゅっと俺の腕を握る手に力を込めてきた。
「本当に楽しい事ばかりだったらいいのに・・・・どうして嫌なことやつらいこともついてくるのかな・・・・・。」
「瑞鶴?」
「提督、ごめんなさい。私・・・・ここにきてものすごく怖いの
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