第三十七話 眠れない夜を抱いて
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0600 出撃まであと24時間――。
紀伊は朝早く起き、まだ靄のかかる払暁の中を横須賀鎮守府の背後にある小高い丘に歩いている。秋も深まり、そろそろ冬に移行しようとしているこの季節、マフラーを巻き、手袋をしている紀伊の吐く息があたりを白く染めていく。
やがて丘の上に立った紀伊は黄金色に染めて登っていく明け方の太陽を穏やかな眼差しで、静かに眺めていた。
ほうっ、と息を吐き出し、大きく伸びをする。
「こんなにじっくりと太陽を眺めたのは、本当に久しぶりだわ。」
しみじみとつぶやきながら、紀伊は深呼吸し、心行くまで朝のひんやりとした大気を吸った。肺が寒くなったが、それでもその感覚は快いものだった。
「あぁ、紀伊じゃない。」
背後から声がした。振り向くと、飛龍と蒼龍、そして大鳳が丘を登ってくる姿が見えた。
「おはようございます。お早いですね。」
紀伊があいさつすると、3人も気持ちよさそうに挨拶してきた。
「おはよう。紀伊もね。どうしたの?」
「私、横須賀鎮守府に来てから、ここに来たことがなくて・・・一度行ってみたいと思っていたんです。綺麗ですね。」
「そうだよ。ここから上る朝日はとても綺麗なんだ。私も蒼龍も大鳳もここがお気に入りの場所なの。研究に息詰まったりすると、こうしてここで息抜きするわけ。」
そうなんですか、と言いかけた紀伊は愕然となった。
「ええっ!?今の今までずっと研究室に!?」
「そうだよ。」
蒼龍がこともなげに言った。
「まだ震電の最終調整ができてなくて、ギリギリまでやりたいし。」
震電に関しては、飛龍たちの懸命の努力の末、なんとか出撃に耐えられる機体になるまでこぎつけていた。だが、細かい点で微調整が必要であるため、彼女たちは平常任務の合間を縫って最後の最後まで調整をしていたのである。おそらくミッドウェー本島攻略の際の制空戦闘並びに敵艦載機隊との交戦において、震電の雄姿が目撃されるだろうと言われていた。
「そんなことしたら、出撃の時に――。」
「今日は早く寝るから大丈夫だよ。それにあと少しで終わるから。」
飛龍がにっとした。彼女たちにとっては、念願の幻の機体の実装まであと少しというところにきているのだ。その執念はすさまじいものだった。それについて携わっていない自分がどうこう言えることではないだろう。
「完成した機体、楽しみにしていますね!」
紀伊は微笑んだ。
「うん、たぶん明日の最初の出撃には間に合わないだろうけれど・・・、でもうまくすれば後発の妖精たちがそれに乗ってこられるかもしれない。ミッドウェー本島が初陣だなんて、妖精たちも気合入るだろうね。」
蒼龍が楽しそうに言う。
「幻の新鋭機ですか・・・・幻・・・・。」
紀伊が何気なく口にのぼせた言葉を聞いた大鳳が、
「紀伊さんもそのようなも
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