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艦隊これくしょん【幻の特務艦】
第三十六話 原因はこの際問題ではありません。要はどうやってケリをつけるかです。
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葵の執務室に入ったたいていの人は驚く。正面左、そして右の壁は一面の書棚になっていた。これはいたって普通である。問題はその書棚の後ろの壁も埋め込み式の書棚になっていることである。まるでちょっとした図書館だ。
 いったい何をそんなに蔵書しているのかという問いに、葵はこうかえしたものだ。

「私の専攻は戦術・戦略論よ。でも、そんな本を読んでいると絶対二番煎じになるじゃない。必要なのは戦場に登場する人員や兵器についての基礎知識、そして独創性。その独創性を養うために、ありとあらゆるジャンルをそろえておくのよ。私は。」

 その言葉通り、ありとあらゆるジャンルが葵の部屋に置いてある。それこそ漫画家から古典文学、天文学から地質学、自然科学など様々だ。このような姿勢は前世大日本帝国海軍の参謀だった秋山真之に倣ったものなのかもしれない。もっとも、秋山の方は本を乱読するだけで必要な個所を読むと後は捨ててしまうのだったが。
正面は一面のガラス張りの窓であり、外はバルコニーになっていて、一面の港湾施設、そして海を遠望できている。ここは完全な西向きであり、黄昏などには美しい夕日が海に向かって沈んでいく様を眺めることができる。大きな執務机がその窓に向かっておいてあり、ポータブルPC,研究書籍、報告レポートなどが無造作に散らばっている。その後ろには大きなソファが置いてある。仕事をして疲れたらすぐに、でんとソファにねっころがれるようにという葵の言葉に、呉鎮守府の提督などは露骨にあきれ顔をしたものだ。
 そのソファの左、書棚に近いところに椅子を引き寄せて、葵は書棚に向かって話している。正確には書棚の一か所がぽっかりとあいてそこに埋め込まれているディスプレイに向かって話しているのだ。
「そう・・・・挺身隊と、大湊鎮守府、そして連合艦隊の主力部隊の奮戦で、レーダー搭載深海棲艦はすべて撃破されたの。・・・そうよ、決定打を撃ったのは、あの問題児の尾張。まぁ、実際に仕留めたのは川内だけれどさ、皆を引っ張って、チャンスを作ったのはあの子なのよね。信じらんないわよね。まぁ、これもあの子のおかげだと思ってるけど。誰って?そう、紀伊よ。あの子のおかげで尾張も少なからぬ影響を受けたと思うの。そうじゃなかったらきっと今頃もひねくれていたままよ。」
葵は手近のカップから湯気の立つお茶を一口飲んで、のどを潤して続けた。
「とはいえ、この間ね、また深海棲艦艦隊が沖ノ島泊地に来た時のことなんだけれどさ――。」


2日前、沖ノ島泊地近海にて――。
「蹂躙してやりなさいッ!!!!」


尾張が右腕を振りぬく。一斉に放たれた主砲弾が、横一列に展開する敵戦艦を貫き、次々と爆沈させる。慌てふためく敵艦隊を、彼女を先頭に近江、川内、吹雪、夕立、村雨、高雄、麻耶の臨時編成第3戦隊が、猛速度で白波
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