第三十五話 扇の要
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もできなくなっていたのだ。今、川内のすべての機能は、目に、そして主砲を掲げる腕にそれを支える足に集中している。
「・・・・・・・ッ!!!」
歯を食いしばった。唾を飲み込むように喉が鳴った瞬間――。
爆音とともに主砲弾が放たれ、次いで魚雷が発射された。一瞬ですべての感覚が戻ってきた。
「お願い!!!当たって!!!!」
川内が叫ぶ。
「いっけぇ!!!!」
「あたれぇぇ!!!!」
誰もが同じような言葉を一様に叫んでいた。もし、この光景を葵がみれば、きっと満足そうにうなずいていたに違いない。なぜならこの瞬間、まさに全艦隊が一つになったと言えるのだから。
3日後――。
病室で紀伊は折り鶴を折る手を止めた。何か声にならないこだまのような物がかすかに聞こえたような気がしたのだ。清霜がすっかり元気になり、自分の腕の傷も徐々に良くなってきているが、紀伊は折り鶴を折る手を休めなかった。
気が付けば昼近い。秋にしてはまるで春のような陽気である。降り注ぐ暖かな陽光は疲れた紀伊の指先を温めなおしてくれた。
ふっと息を吐いて手を動かし始めた時、ガチャリと静かにノブが回った。声もかけずに入ってくるのは誰だろう。
ふと、顔を上げた紀伊の眼が一杯に見開かれ、ついで手から完成したばかりの折り鶴が落ちた。それは生きているかのように一瞬空を舞い、ゆっくりと床に降りた。
「お帰りなさい。」
穏やかな声で紀伊は尾張たちに話しかけた。
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