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艦隊これくしょん【幻の特務艦】
第三十五話 扇の要
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、同じ轍を踏まないわ。」
風圧で髪が後ろになびく。尾張の右手が右に大きく振られ、そして正面に振りぬかれた。
「テェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
3連装主砲が同時に火を噴く。その時、右翼からの川内たちの攻撃で、ひるんだハ級とエリートヲ級がバランスを崩し、戦艦ル級にぶつかった。ル級は驚いたように甲高い金属音を発し、体勢が乱れた。そのル級に尾張の放った主砲弾が命中し、大爆発を起こす。ル級は黒煙を上げ、傾きながら深海にズブズブと沈んでいく。再びレーダー搭載深海棲艦が尾張の軸線上にとらえられた。
「テェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
尾張が再び叫んだ。まっしぐらに飛び込んだ主砲弾がレーダー搭載深海棲艦を襲う。
「やった?!」
だが、疾風のように白波蹴立てて横合いから飛び込んだハ級に命中して破片をまき散らしただけだった。
「チッ!!」
舌打ちした尾張が主砲を再度構えようとして、横合いに突っ走った。そのすれすれを敵の主砲が襲う。それを駆け抜けながらかわし、瞬時に戦況を判断しながら、尾張は思った。なるほど、姉の、紀伊の言うことは本当だ。自らの力のみで進むことには、限界がある。そう、紀伊型空母戦艦は万能ではないのだ。未だそのことに関してはプライドを傷つけられることもあるが、同時にある種の誇らしさもある。それは――。
「同じ轍は踏まない。・・・・けれど、川内!!」


敵の駆逐艦隊と渡り合っていた川内ははっと尾張を向いた。


「あなたが、切り開きなさい!!」


電撃のように飛び込んできた言葉。その瞬間、川内は気がついていた。レーダー搭載深海棲艦を後方に置いて、それを守るように敵は尾張の真正面に一文字に展開している。一見すると尾張にはT字不利になっている形だ。だが、今川内は尾張から見て正面2時方向に位置、つまり、深海棲艦の艦列を左斜前方に睨んでいる形だ。


そして――。自分と目標との間には、今、何一つ障害がない。まっすぐ正面にレーダー搭載深海棲艦が漂っている。


「浦風、村雨!!」
一声叫んだ川内が全速力で飛び出していった。二人は一瞬で意図を読み取ったらしい。全力を挙げて、川内の左側面に立ちふさがるようにして敵をけん制し始めた。その脇をすり抜けながら川内は一気に主砲を構えた。
「勝負は一瞬――!!お願い、お願い、お願い!!!!」
左側面から敵が狼狽したように飛び出そうとしている。だが、次々と巨弾で狙い撃ちされて、炎上。戦列を離れていく。
「川内さん!!」
近江が叫んでいる。うなずいた川内は一気に目標との距離を詰めた。

ドキッ、ドキッ、ドキッ、という鼓動が響く。

それが自分の心音だとわかるほど、不思議にあたりの音がやんでいた。文字通りの静寂。集中力が極限にまで高まり、聴力を考慮すること
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