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艦隊これくしょん【幻の特務艦】
第三十四話 マリアナ諸島
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 ざあっと心地よい波頭が白い砂浜に打ち寄せてくる。熱を含んだ風がヤシの大きな葉を揺らして通り過ぎ、海鳥が元気よく鳴きながらす〜っと海上をすべるようにして飛んでいく。もう秋に差し掛かろうというのにここ南太平洋上ではまだまだ暑い日々が続いていた。
「待て〜〜〜!!!!」
暁が顔を上気させながら砂浜を走っていく。その前には雷と響の姿がある。
「待ちなさいッたら!!よくもレディーの顔に海水かけたわね!!!」
暁の剣幕に雷も逃げながら叫ぶ。
「だって海遊びのお約束じゃないの!もう、そんなに怒らないでよ!」
「三人とも待つのです!!!喧嘩はよくないのです!!!
暁の後ろから電が一生懸命追っかけている。
「は、はわわわわっ!!」
電がばったりころんだ。慌てて起き上がったが、その前に慌てて駆けつけてきた暁たちが電の服をはたいたり払ったりしている。
 その光景を鳳翔はほほえましく見つめていた。
「どうやら、元気を取り戻してきたようじゃな。」
サクサクと砂を踏む音がして利根が鳳翔の隣に立った。鳳翔が利根に顔を向けて、
「ご心配をおかけしました。利根さんの叱咤がなかったら、私はあのままでしたから。」
ん、と利根は鼻音を立てたが、何も言わなかった。照れ臭いときの彼女の癖だ。
「お主が綾波のことを考えていることは全員が知っていることじゃ。むろん吾輩たちも片時も忘れたことはない。だがな、だからと言って秘書官としての仕事や艦娘としての戦いぶりがおろそかになってしまっては、綾波も悲しむぞ。」
「はい。」
鳳翔はうなずいた。今でも心に受けた傷は深いし、耐え難い発作的な痛みに襲われることはある。当時はもっとひどかった。それを押し殺して陣頭に立った鳳翔は的確な指揮ぶりでマリアナ諸島の島の一つ、サイパン島を攻略、直ちに周辺の島々も制圧し、ヤマト本土から海兵隊と基地航空隊を呼び寄せ、基地化させたのだった。ようやくひと段落し、周辺海域の制海権と制空権を確保することができた呉鎮守府の艦娘たちはつかの間の休息を味わっている。
「話は変わるが。」
利根が口を開いた。
「横須賀鎮守府の艦娘たちは全員改装を受けることに決まったそうじゃな。」
「うらやましいですか?」
微笑を含んだ鳳翔の視線に、む〜と利根が口を引き結ぶ。
「吾輩たちも航空巡洋艦なのじゃが、噂の改二とやらになってみたい気はしておる。先日筑摩にその話をしたらの、奴は何と言ったと思う?」
「なんて言ったのですか?」
利根は咳払いをして、
「『利根姉さん、私たちは今のままで充分改修を受けています。これ以上改装を受けたりしたら呉鎮守府の資材は底をつきますし、他の皆様に申し訳ありません。』と言いおった。」
あまりにも筑摩そっくりの声音なので、鳳翔がくすくす笑った。
「お上手ですね、利根さん。」
「む。
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