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トシサダ戦国浪漫奇譚
第一章 天下統一編
第十一話 策謀
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い人で務まるわけがないよな。だが、徳川家康は戦国大名の割には残虐な真似はあまりしていない。昔の恨みを忘れない根暗な面もあるが、戦国大名の中では甘い部類だと思っている。三河一向一揆の時も裏切った家臣を許しているし、寺も破却することで許している。あまり苛烈な真似は好まない人物じゃないだろうか。徳川家康にも残虐な話はあるが戦国大名なら一つや二つ位はあるだろう。

「内匠助殿、韮山城を落とすためには江川英吉を調略するしかない。有象無象の国人を調略しても北条氏規の心を動かせなければ意味がないでしょう。韮山城に江川の名を冠した砦があるということは北条家から重用されている証と言えます。」

 徳川家康を頼ること否定的な曽根昌世に藤林正保は意見した。俺も江川英吉を味方につける計画を変更するつもりはない。これしか無いだろう。

「長門守殿、それはわかっています」

 曽根昌世は藤林正保の意見に反対することなく同意した。徳川家康の力を借りることに否定的なだけで、曽根昌世も江川氏を調略することには賛成のようだ。
 韮山城を攻めるも北条氏規に降伏されるにも、韮山城の内部に協力者を作る必要がある。その人物として適役なのが江川英吉だ。江川家は韮山城のある地域を古くから領有して土豪の一族だ。土地勘もあり韮山城のことも良く知っているはずだ。だから徳川家康は江川英吉を内応させたのだろう。それに伊豆国と徳川領の位置関係から韮山城攻めは徳川家康が命じられる可能性は十分にあった。事前に伊豆国を調略を進めていたのはそれが理由だろう。

「殿、思い違いされておられるようですな。江川氏は既に立場を決めております」

 曽根昌世は厳しい表情で俺に言った。

「北条氏規の元に江川英吉、徳川家康の元に江川英長。お分かりになりませんか」

 俺は曽根昌世が指摘した内容に既視感を感じた。関ヶ原の戦いの前に真田昌幸と真田信之は西軍と東軍に分かれて戦う道を選んだ。

「江川英吉は北条氏規は絶対に裏切らないということか?」

 俺は表情を固くして曽根昌世に聞いた。曽根昌世は深く頷いた。

「内匠助殿、そうとも言えないだろう。豊臣家が絶対に勝利すると思えば国人は豊臣家に靡くはずだ」

 藤林正保は曽根昌世の考えに難色を示した。

「ただの伊豆国の国人であればそうでしょう。ですが、早雲公以来仕える江川氏なら意地も誇りもあるでしょう。死ぬ急ぐような真似はしないでしょう。息子を徳川家康に遣わした理由はどちらに転んでもあわよくば互いの助命を得ようという国人らしい強かなずる賢いやり口です」

 曽根昌世は国人領主のことを軽蔑したような口振りだった。だが、俺は国人領主のそういう面は逞しさだと感じた。誰も死にたくないに決まっている。だから、必死に生き残れるように布石を打つのだと
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