乙女の章
].Chorale(Ich freue mich in dir)
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ハンスは胸に抱いていたシュカに、そっと声を掛けた。
「はい…。」
シュカはそれ以上言葉を紡がなかった。
ただ、愛しき者の胸へと顔を埋め、過ぎ去りし時と来るべき時とを思うだけであった。
その後、大司教はこの奇跡を伝え、古より伝わる三つの儀式の放棄を宣言し、大々的に教義の見直しに入った。またそれに伴い、七人の預言者は解散させられ、トレーネの森にあった聖グロリア教会もその役目を終えたのであった。
乙女のシュカであるが、その後に国王ハンスの妃となり、その婚姻の儀は盛大に執り行われた。
この婚姻の儀には町楽士だけでなく、大聖堂の楽士達、それに聖グロリア教会の神父とシスターも加わり、街全体がまるで祭りの様な騒ぎであったと記録されている。
さて、国王ハンスとシュカとの間には五人の子が出来た。二人は王子であり、残る三人は王女であった。
第一王子のアルバートは、後にこの国の王となり、第二王子ニコラウスは恋愛の末、伯爵家の令嬢と結婚した。
残る三人の王女は、周囲の三つの国々の王家へと輿入れしたが、神に祝福されているためか、末長く幸せに暮らしたと伝えられている。
このお陰もあり、各国はとても友好的な政治をし、後に“黄金期”と呼ばれる時代に入るが、この者達が没してから程なく、ラッカと言う国がこの平安を打ち破ったことはよく知られた歴史であろう。
それにも意味はあったのであるが、それはいつか語ることもあろう。
最後に。
シュカは王妃として民達に大変愛され、王ハンスと共によく民の前へと姿を見せた。
その時、決まって何かしらの楽器を持参し、それを奏でては働く者達の心をを和ませていたと言う。
王ハンスもあまり上手いとは言い難かったと言われるが、シュカの奏でる楽器に合わせ歌を歌い、その仲睦まじい姿は民の憧れとなっていたと言われている。
晩年のシュカの手記にこう記されている。
- 人の死は定めとは言え、いとも寂しく哀しい心を運んでくるもの。しかし、それは人の心で計ったものであり、神の愛を感じれば、必ず再会することが出来るのだと確信出来る。だから、私は原初の神を愛し、王であり夫であるハンスを愛し続けられる。
なんという喜び、なんという嬉しさ、なんという至福であることでしょう!
私は神に感謝を捧げるのです。そう、愛を与えて下さった神に、こんなにも愛して止まないハンスに! -
時はうつろい、この平安な国は伝説上にしか存在しなくなってしまった。
だが言おう。この国は愛で溢れていたと、私は断言出来る。
何故ならば、この話が堅く守り続けられているからである。
この話は、今の世に何を問い掛けているのであろうか?私は解るような気がするのである。
世俗や宗教を飛び越え、人の愛とはいかに貴く、いかに美しく清
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