乙女の章
].Chorale(Ich freue mich in dir)
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から立ち込める乳香の煙は、まるで逝く者を憐れむかのように緩やかに拡散し、その場にいた三人を包み込んでいた。
そこから少し離れた場所から見ていた大司教、国王ハンス他神父を除く全ての者達は皆、初めて見る儀式の凛とした空気に圧倒され、そして心が浄化されゆくような感じがしたという。
暫く後シュカの祈りが終わり、いよいよ入水の時がきた。
「シュカ、語りたいことはありますか?」
徐にシスター・ミュライが言った。
「いいえ…。」
シスターにシュカは短くそう告げると、直ぐに泉にへと振り返った。
シュカはそれ以上なにも口にすることなく、泉の中へと入っていったのであった。
この泉は途中からいきなり深くなり、そのまま一気に沈むようになっている。シュカも多くの乙女達同様、数十歩歩んだ後にその美しき姿を泉の中へと永久に消し去ったのであった。
「シュカ…。」
シュカの最期を見届けるや、ハンスはその場に崩れ落ちた。いかな王とて人である。愛しき者が目の前で逝かねばならぬのを、直視するだけでも大いなる苦痛であり、いかばかりの哀しみに囚われたであろうか…。
「我は…何のための王であるか…。」
自責の念がハンスを取り込み、王は自らの不甲斐なさを後悔した。
正直に語れば、ここでシュカを力ずくで助けても良かったのであろうが、そうなれば宗教と政治の間に不和が生じ、民はその争いに巻き込まれる恐れがあった。
ハンスは国を守る者として、どうしてもそれが出来なかったのであった。
「王よ、どうかお立ち下され。乙女は神の御前に出られたのですから…。」
哀しみに暮れるハンスにそう言ったのは、司祭の一人であるフォルテであった。
だがその横で、そんな王を見下していたのがヴィンマルク卿である。
「このような精神の脆弱な者が国の王とは…。全く嘆かわしい限りですな。」
ヴィンマルク卿はここぞとばかりに未だ若きハンスを責め立て、その地位に相応しいかを周囲に問った。
「神を信奉する者は嘆くことはないはず。ハンス王の国王としての資質も疑わねばなりますまい。」
周囲の大司教を始め、皆はヴィンマルク卿の言葉に憤りを覚えた。ヴィンマルク卿の言葉には、明らかに王と大司教とを失脚させようとする意志が見えていたからである。
そこで彼の態度を問い質そうと、大司教が口を開きかけた時であった。
「そうよのぅ、ネッセルよ。汝のような姑息な者が居るため、世は平安にはゆかぬのだ。」
透るような美しい声がこだました。皆は慌てて声の主を探したが、それを見るなりあまりのことに腰を抜かす者までいた。
一人の美しい姿をした女性が、泉の中央に立っていたからである。
「お、お前は…誰だ?。」
ヴィンマルク卿は目を見開き、泉に立つ女性を指差して言った。
女性は静かに笑い、蒼く震
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