乙女の章
\.Gigue
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に、先に追い出されたヴィンマルク卿がすごすごと姿を見せた。
「何事じゃ。」
不機嫌な顔を顕に大司教が問うと、未だ蒼い顔のヴィンマルク卿が国王が大聖堂に到着したことを告げたのであった。
「何故このような時に国王が…!?」
この知らせを聞き、今度は三人の神父達が笑みを溢す番となった。
たが、大司教は困ったと言わんばかりに額に手を当てて言った。
「仕方あるまい…。直ぐにお通しするのだ。」
星宿の儀式以外で国王が大聖堂へと赴くなぞ、これこそ前代未聞の出来事であった。過去に一例もなく、余程のことかと大司教は考えた。よもや同じことの繰返しになろうとは思いもせずに。
国王が大司教の部屋に通されてから二時間程後、話し合いは未だ平行線を辿っていた。
院で可決された立法と教会の教義とが相容れないためである。
「いかな王とは言え、国教の教義を変えるわけにはゆかぬ。」
「そうではない。元に戻せと言っておるのだ。」
ずっとこの有り様である。
このような押し問答が続いている中、部屋の暖炉に薪をくべるべく使用人が幾度か来ていたが、大司教と国王の手前、仕事がやりずらくて仕方なかったであろう。
火を絶しても怒られ話を聞いても怒られる…。見ていた神父達は、その使用人が憐れだと思わずにはいられなかった。
そして暫くの後、大司教が根負けして一つの案を飲むことにしたのであった。
それは三人の神父達が持ってきたもので、大司教を始め、この教会の十六人の司教と国王ハンスを聖グロリア教会へと招くことである。
「今はこれしか出来ぬ…。」
この一言で、三人の神父達はやっと胸を撫で下ろすことが出来た。これで一歩、ゲオルク神父とラノンが描いていた事柄に近付けたからである。
だが、それにすら条件が付け加えられた。
「行うのは星昇の儀式の前日とし、わしと国王で選出した者達も儀式を見届けることとする。」
大司教のこの発案は、儀式が正当なものか否かを見極めるもので、国王ハンスが院で可決した立法を擁護するかを判断するためのものでもあった。
そこまでしなければ司教達だけでなく、入信している民とて納得することはないと考えたからである。
古より続けられてきた儀式が自らの代で途絶えようと、それが神の望むことであるならば、大司教はその地位と生命を賭けて三つの儀式を絶つこと宣言する覚悟であった。
「国王ハンスよ。我が総てを賭けて見極めようぞ。それまで暫し静観せよ。」
これは三人の神父達に言った言葉でもあり、皆はそれに従う他はなかった。
時は砂のごとく静に落ち去り、トレーネの森でも王都でも、何事もなく平安な日々を受領していた。
だが、大司教の失脚を望むヴィンマルク卿は一人で奔走していた。裏で手を回し、司教達を自分の懐へ入れようと躍起になっていたので
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