乙女の章
[.Bourree
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眠気の取れない二人の乙女は、礼拝堂に入ると一気に眠気が飛んでしまったのであった。
そこには鮮やかな装飾の施されたチェンバロがあり、聖壇の左側の壁には小型ながら美しい細工がなされたパイプ・オルガンが設置されていたのである。
「いつのまに…。」
シュカとドリスは言葉にならないほど驚いた。そんな呆然としている二人の乙女に、シスター・アルテが優しく微笑んで言った。
「チェンバロは街の楽器職人さんが、古いものを修復して下さったものです。オルガンは街の領主であられるジェームズ公爵様からの贈り物ですよ。」
ジェームズ公爵とは、シュカより数え五代前の乙女の父で、セレガの街を納める大貴族である。
乙女ラノンの育ったジュプリーン侯爵家とも面識があり、ラノンの書簡の話を聞き付けるやオルガンの寄贈をジュプリーン侯爵家に伝えてきたのであった。
これから長年使用されるであろうこれらの楽器は、双方共に丈夫な素材で作られていた。その上、とても美しい装飾が施されていたため、恰も美術品のような様相を呈していた。
二人の乙女は大変喜び、先ずはチェンバロの前に歩み寄ったのであった。
オルガンは送風するふいご役が必要なため、今は音を出すことが出来なかったためでもあるが。
「わぁ…綺麗ねぇ…。あ、これって聖グロリアじゃない?」
ドリスがチェンバロの反響板の裏に描かれた絵を指差して言った。そこには、優しい微笑みを湛えた女性の姿が描かれていたのである。
シュカもその絵を見ると、正にその女性は聖グロリアであった。
「よく分かったわね。私も一度しか聖画像を見たことはないけど…これは聖グロリアに間違いないわねぇ…。ん?」
シュカはその絵をじっくりと見ていたが、少し違う点を発見したのであった。
「ここに天秤が置かれてるわ…。それに、手に持ってるのは白百合じゃないわねぇ…。」
聖グロリアの聖画像には通常、何かしらの楽器が描かれるが、ここには代わりに天秤が描かれていたのである。
また、手には聖花として用いられていた白百合を描くのが通例であったが、そこにはなぜか存在しない白薔薇が描かれていたのである。
不思議そうに呟くシュカに、シスター・ミュライが微笑んで答えたのであった。
「その聖グロリアは、シュカ、あなたのために描かれたものなのです。」
「え?私のためにって…どなたがこの聖グロリアを?」
傍らに立つドリスも首を傾げているが、それは当然の反応と言えるだろう。
「この絵はハンス王が自ら描いたものなのです。」
「!!」
シスター・ミュライの答えに二人の乙女は驚いた。一国の王が反響板裏に絵を描くなど前代未聞である。それも…シュカ個人のためにとは、さすがの本人も言葉がでなかった。
隣にいたドリスは何か思ったらしく、シュカに向かって静かな口調で言
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