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SNOW ROSE
乙女の章
[.Bourree
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めた。
 実を言えば、このソナタの通奏低音にはチェンバロが必要で、本来はヴィオラ・ダ・ガンバかチェロが入るのが通例であった。しかし、この曲以外のソナタは少なくとも五人の演奏者が必要となり、切り詰めて四人でも演奏可能な曲がこの第五番なのであった。
 第一楽章と第三楽章は然程問題はないのだが、第二楽章と第四楽章ではやはり低音の音量が欲しいところである。特に第四楽章のフーガに至っては、クラヴィコードではやはり線を出すことが出来なかった。
「やっぱり…スピネットくらいは欲しいものですね…。」
 演奏を終えた直後、シスター・ミュライが言った。
 その言葉を受け、隣に座っていたシスター・アルテも口を開いた。
「そうですわね。本来ならオルガンを使用する曲ですしねぇ…。シスター・ミュライ、どうでしょうか?街の古楽器店に頼んで、一台チェンバロを入れましょうか。」
 この提案に、シュカもドリスも目を丸くしてしまった。
 チェンバロは安くとも、一台で金貨二十枚は軽くしてしまう代物である。おいそれと購入出来るものではないのである。
 無論オルガンよりは安いといえ、当然、教会からすれば高額な買い物に代わりない。
「シスター。お気持ちは嬉しいのですが、とてもそれを賄うお金はありませんし、手の出る楽器ではありませんから…。」
 シュカが困った顔をして言うと、シスター・アルテは微笑んでこう言ったのであった。
「実は…あるんですよ。楽器を買うお金は。」
 それを聞いたシュカとドリスは唖然とした。
「なんで?それって…買ってもいいってこと?」
 ドリスは目をぱちくりしながらシスター達に問い掛けた。
 シスター達は互いに頷き合ってから、目の前の乙女達に事情を説明したのであった。
「先代の乙女ラノンが、自ら生家へと書簡を送っていたのです。」
 今は亡き乙女ラノンは、由緒あるジュプリーン侯爵家の二番目の娘であった。最期にラノンは、侯爵である父に書簡をしたためたのであった。
 その書簡には幾つかの願いが書かれていたが、その中に、この教会にて音楽を絶すことなく続けられるよう援助してほしいと書かれていたのである。
 その他、この教会の人々がどれだけ優しく、温かい人々かを切々と綴り、自分がどれ程感謝しているのかを書き記していたのであった。
 その書簡を読んだ両親は感激のあまり涙を流し、直ぐに教会へと返書を書き、寄付のための金貨二百枚と共にこの教会へと送ったのであった。
 シュカはその話を聞き、あまりのことに涙を溢れさせた。
「シュカ、大丈夫…?」
 ドリスが心配そうにシュカを覗き込むと、シュカは「大丈夫よ。」と言って涙を拭ったのであった。

 数ヶ月経ったある日のことであった。
 シュカとドリスの二人は、朝早くにシスター達に呼ばれて礼拝堂へと赴いた。まだ
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